火曜日の幻想譚 Ⅳ
471.酩酊
フラフラ、クラクラ。ベロベロ、メロメロ。
ご想像の通り、しこたま酔っている。
駅で無闇に見知らぬ人に絡み、電車内で座席に寝そべって家へと帰る。迷惑をかけている自覚はあるが、これっぱかりはやめられない。すっかりいいキモチで家の扉を開く。これだけできあがっているなら、長年連れ添ったかみさんも新鮮に見えるだろう。ちょっとばかりかわいがってやるかと思い、台所にいるところを後ろから抱きついた。
そしたら、俺よりかみさんのほうが酔っていた。
「いつもあんたばかり、たまにはあたしがのんでもいいじゃない」
いつもは淑やかな嫁がそう言って、野獣のごとく襲いかかってくる。トロンとした目、酒くさい息、汗ばんだ胸の谷間、はだけたスカートからのぞく下着。
意外な妻の変貌に、俺はほうほうの体でわが家を抜け出す。酒をのみ放題のんでる俺に、大人しくついてきてくれたあいつがあんなに……。つくづく酒の力は偉大だなぁ、そう思ったときだった。
突然大地が震え、俺はもんどり打って倒れる。大地震だ。世界は揺れ動き、人々は駆け回り、建物は崩れ落ち、ニュースは騒ぎ立てる。俺は妙におかしくなってゲラゲラ笑いながら、地面の震えに身を委ねそこら中を転げ回る。
きっと、地球ものまないとやってられないんだな。そうだよ、これだけ人間がいろいろしてるんだもん。
さあ、もうどうせ世界は終わりだ。みんな酔った勢いで、やりたい放題しようぜ。俺は心配して探しにきた嫁の手を取って、地震の揺れに任せて、人生始めての社交ダンスを踊り始めた。