火曜日の幻想譚 Ⅳ
377.投票方法
僕の地元の隣の村はちょっと変わっているんだ。
どこの市区町村でも選挙というものをやるだろう。そう、あの清き一票を入れるやつ。あれの投票の仕方が一風変わっているんだよ。
どう変わっているかというと、まず、投票会場があるよね。その会場に、誰か一人が投票をしに入るとする。するとその人が出てくるまで、次の人は絶対に体育館に入らないのさ。前の人が入場券を出して、用紙をもらい、記入して、投票して、出てくるまで、ずっと入り口で待っているんだ。
そう。子どもを連れたお母さんも、必ず他の人に子どもを預けるんだ。介助が必要なおじいさん、おばあさんも、体育館内では一人なんだよ。そして、その人が出てくるまでは何があっても次の人は入らない。数少ない例外は代理投票ぐらいだね。あれは二人で確認して投票するから。
始めは選挙管理委員会もやめさせようとしたんだ。でも、何を言っても聞かない。一度なんか、村長がこの制度の廃止を公約にしようとしたら支持率ががくんと下がったっていうんだ。それほど、この選挙方法が根付いてるみたいなんだよ。
なんでそんなふうになったのかって? 昔、この政党に入れろって付き添ってくるじいさんがいたらしいんだ。で、二度とそういうことはさせないという強い決意の下、今のようなやり方になったと聞いたよ。
でも、これができるのは、村ゆえに人口が少ないことと、みんなが顔見知りだからできることなんだろうね。多分、都市部ではこんな悠長にやってられないはずだよ。
ちなみに、今はもう少し話が進んでいてね。投票率の低さを解消するために、体育館の中を真っ暗にして (投票用紙には入る前に記入してもらって)、暗闇の中を投票箱まで進むようにしようとしているらしい。で、無事に投票できたらジュースがもらえる予定なんだそうだ。
その村の人々は、この形式を『肝試し式投票法』と呼んで、全国に広めたいんだってさ。