火曜日の幻想譚 Ⅳ
380.冷たいもの
付き合っていた彼女は、冷たいものをよく食べていた。
冬場でもアイスを日夜手放さない。年越しそばも冷たくして食べるし、うどんも言わずもがな。挙げ句の果てには、ご飯をたいた後おひつに入れて、冷たくなってから食べるというありさまだった。
「あったかいの、おいしいよ」
嫌がっているところを無理やりラーメン屋に連れ出して、そんなことを言ってみたが、それでもスープがぬるくなったつけ麺をまずそうにすすっている始末。
多分、重度の猫舌なんだろう。でもそんなところも、かわいいじゃないか。そんなふうに思い、彼女との交際を楽しんでいた。
それから数カ月。
久しぶりに待ち合わせをして、5日ぶりぐらいに喫茶店で彼女に会う。アイスティーを飲みながら待っている彼女は、明らかに不機嫌そうだった。
向かいの席に座ると、いきなりスマホで画像を見せてくる。そこには数日前知り合った女の子と僕が、一緒にカラオケに入る場面が写し出されている。
青くなる僕。だが彼女は容赦をしない。次の画像は僕の家に一緒に入るところだ。そこまで、しっかりと画像に収められてしまっていたのか。
「どういうことか、説明してくれる?」
アイスティーの氷をジャリジャリかみながら、彼女はこちらをにらんで言う。その形相はどんなに上手に説明や言い訳をしても、受け付けてくれそうにない。
「…………」
もうお手上げだ。黙りこくるしかない。すると次の瞬間、彼女は僕の水を僕の顔にぶちまけ、そして自分の水を一気に飲み干して、今度はそちらの氷をジャリジャリしながら出ていってしまった。
さすが冷たいものが好きなだけあって、僕の既に冷え切っていた心にもきれいにかみついてきたなぁ。ビショビショになりながら、そんなつまんないことをぼんやり考えていた。