ドクター・ヤブ田の、らくらく医学講座
そういう世の中だからだろう、癒しを求める人が多くなった。
私の診察室を訪れる患者さんの中にも、そういう人は多いようだ。
でも、医者に向かって「癒してください」とは、なかなか言い出せないものだ。
そのことは、奥さんにはもちろん、親戚にも相談できない。
まして、上司には言えないし、部下に頼むわけにいかない。
ほんとうは、私のところに来るより、温泉に行くのがいいのだが、薬を貰うほうが安上がりなのだろう。
こういう患者さんがきたとき、一番よい治療は、黙って聞いてあげることだ。
看護学の教科書には、「傾聴」と書かれている。
基本は、相手の言うことを、意見を差し挟まずに聞くことだ。
よほどの事がない限り口を挟んではいけない。
口を挟まなければならないのは、借金を申し込まれた時、結婚を申し込まれた時など、特殊な場合に限られる。
何か喋って相手を遮るよりは、黙って今晩のおかずのことを考えているほうが、マシである。
作品名:ドクター・ヤブ田の、らくらく医学講座 作家名:ヤブ田玄白