ドクター・ヤブ田の、らくらく医学講座
昼食の後、プレドニンを4錠飲んだ。苦い薬だ。
〈今週はゴルフの練習もできないのか。もちろん、マージャンなんかやってはいけないだろうナ〉
ぼんやりソファに横になった。
〈最近は年のせいか、いろいろなところが故障している。膝や歯はしょうがないが、耳が悪くなるとは思わなかった。聴覚は私が一番得意な分野だったのに。ベートーベンは難聴になってからも「第九」などの名曲を残したが、私が難聴になったらどうなるのだろうか? これも「運命」なのか。医者の仕事もできなくなるかもしれない。心臓や肺の聴診ができなくなるからだ。でも、聴こえているフリをしよう〉
患者さんには多少迷惑がかかるが、私が医者をやめたら、猫や私にはそれ以上の迷惑がかかるからだ。
昼寝から覚めると、左耳の聴力はかなり落ちていた。
テレビの音が、いつもの三分の一ぐらいにしか聴こえない。
私は入院を覚悟した。
ところが、夕食の後八時ごろ、猫が私を呼ぶ声が大きく聴こえてきた。
左耳の聴力はかなり回復していた。プレドニンを飲んで六時間後だ。
ホッとした私は、いつもどおりワインを飲んで寝た。
翌朝、聴力はほとんど普通にもどっていた。
月曜日からおそるおそる職場に復帰した。
聴力検査も正常に回復していて、入院せずにすんだ。
その後、耳鳴りがしばらく続いたが、忘れたころに治った。
作品名:ドクター・ヤブ田の、らくらく医学講座 作家名:ヤブ田玄白