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短編集98(過去作品)

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 押し殺すような女性の声、時々きわまったように声が大きくなるが、その声は決して篭ってなどいない。透き通ったような声に気持ちが乗っているように感じ、声というよりも叫びに近く感じられた。声とは、考えながら発するもので、叫びは考えよりも先に本能が出すものだということも、その時に初めて気付いた。
 ゆっくり茂みに隠れながら、男女の交わりを垣間見てしまった。
――見るんじゃなかった――
 と感じたのはいつだっただろう。その時は目が完全に釘付けになってしまっていて、視線を逸らすことはおろか、瞬きすら忘れてしまいそうだった。身体のまわりの空気は固まってしまっていて、乾燥してしまっていた。凍り付いていたと言っても過言ではないだろう。
 後から何度も思い出すのだが、不思議と光景を思い出しながら声を思い出すと、それほど気持ちに高ぶりは感じない。目を瞑って、声だけを思い出すことで自分の中の快感が目を覚ますのだ。
――見るんじゃなかった――
 と感じたのもまんざらではなく、そこに想像だけの世界が広がっていて、見たこと自体、本当だったのかと思えてくるほどだ。
 二人は気付いていたのかも知れない。気付いていて、
「もっと見て」
 と言っていたように思うのは後になってからのことだった。
 だが、見てしまったことで、男女の交わりが薄っぺらものだと感じるようになったのだろう。女性複数と付き合うなど考えられなかったが、今ではその時の感覚を思い出しては、それぞれの女性と一緒にいる時は、その人だけを強く感じることができている。愛情と相手に感じる性欲とではまったく違うものなのだ。
 頭の中を四人の女性が走馬灯のように駆け巡っている。自分にとって今まで付き合ってきた女性たちは、一体何だったのだろう。
 気がつけば背中に冷たいものを感じた。
 湿気を帯びて重たくなった空気で立ち上がることができない。空を見上げているはずなのに、そこには光は差し込んでくることもなく、茂みが身体に覆いかぶさっていた。
「ここは……」
 どれだけの時間が経っていたのだろう。茂みの中で気絶していた自分に気付いたが、今までの人生が薄っぺらいものであることを知った。
 自分のまわりには女はいない。それでも何もかもがうまく行っているように感じる。これから起こるであろう人生を見てしまったのだから……。それが悪い部分なのかいい部分なのか、答えを出すのは結局四郎自身である……。

                (  完  )

作品名:短編集98(過去作品) 作家名:森本晃次