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半睡半醒の微睡

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4.寝起きを良くするたった一つの方法



 なぜだか理由はよく分からないが、数カ月前ぐらいから寝起きがすこぶる悪くなった。

 短くても30分、時には1時間近く布団の中でうだうだしていて、その間は全く何も手に付かない。どうにか布団をはいでて、カーテンを開いて日光を浴びてみたり、洗面所で顔を洗ってみたり、台所でコーヒーをいれて飲んだりしようと頭では思うのだが、それらの行動はまず、不可能と言っていい状態。このおかげで連日、会社に遅刻してしまって減給されるし、デートの約束を守ることもできず彼女にも振られるし、踏んだり蹴ったりもいいところだ。
 睡眠時間、それ自体は十分に取っているはず。平日は6~8時間くらい、恐らく普通の人もこの程度ではないだろうか。これでもまだ少ないかと思い、休日に12時間以上寝るということも試してみたが何も変わらなかった。ちなみに眠りにつくほうは早くて、目をつむればすぐに夢の中だ。

 自分一人ではどうにもならないだろうと思い、何人かの友人に相談してみたことがある。だが、友人たちの助言はあまり参考にならないものばかりだった。寝る前にものを食うなとか、水を飲んでから寝ろとかそのようなものばかり。こちらはそれらのことを試してみた上で話しているのだ。ついつい不機嫌になってしまいそのように言い返すと、今度は、みんな寝起きは気分が悪いんだとか、ちょっとたるんでいるのではとかいった精神論へと話を持っていく。回答ではなく説教が始まってしまうので、私は友人との関係を良好に保つためにも、これ以上の相談を断念せざるを得なかった。

 友人が駄目なら専門家に話を聞けばいいじゃないか。そう思い、病院の門をたたいたこともある。診断の結果、睡眠時無呼吸症候群などではなく、原因は分からずじまいだった。すると、運動をしろとかアルコールやカフェインを控えろとかちゃんと湯船につかれとか、医者すらも通り一遍のことを言ってくる始末。何度でも言うが、それらのことはとうの昔に試しているのだ。すぐに起きられる人間にはご理解をいただけないようだが、起きられない人間というのは、それぐらい必死に起きることに取り組んでいる。それでも不可能なので、みんなの力を請うているということを分かってもらいたい。
 内心で腹を立てつつも診断料を払いながら考える。もしかしたら、道具のせいで寝起きが悪いのではないだろうか。すなわち、寝具を買い換えれば、さわやかな寝起きが手に入るのではないかと考えついたのだ。善は急げということで、その足で早速ばか高いベッドと布団、枕を一式を購入する。しばらくの間、それらで眠りをむさぼってみたが、今まで以上に快適だったため、今度は起きてから1時間どころか3時間ほど布団の中で過ごす羽目になってしまった。

 これはもうどうにかするのは無理なのではないだろうか。そんな考えが私の頭を支配する。観念した私は別の角度から物事を考えることにした。朝、起きてからグズグズしないようにするためにはどうしたらいいか。起きたその瞬間から、「何か」に追い立てられればいいのではないかと考えたのだ。しかも、その「何か」がひどく困難だったり、恐ろしければ恐ろしいほど、きっと効果があるはずだ。そのようなものはあるだろうか……。一日中、そのことについて考え続ける。その間も、ずっと寝起きは悪いままだ。いろいろと信用を失っていく中で、何か起死回生の一手はないだろうかと思考を張り巡らせていた。

 数日後、いろいろと考え抜いた結果だろうか、ある方法が一つだけ思い浮かんだ。結果として他人の力を借りることになってしまうが、もうこの手を使うしかない。私はその夜、ネット上のとあるサイトに短い文章を書き込んでから床についた。

 翌日。スッとまぶたが開き、私は目が覚める。

「10、9、8……」

 その瞬間から、奇妙なカウントダウンが私の部屋にこだまし始める。思わず周囲をキョロキョロと見回すと、ゆっくりとだが天井が下りてきているのに気付く。あと数十秒でこの部屋を出なければ、私はぺしゃんこになって死んでしまう。気だるさの中、はいつくばってどうにか部屋から脱出すると、今度は床がバキッと割れ、そこから異物が飛び出してくる。チェーンソーの先端だ。それはジリジリと床を削り、私の肉体を切り刻もうと迫ってくる。早く着替えを終えなければ私の体は真っ二つだ。どうにか着替えを終え、出社前に朝食としてバナナの一本でも食べようと思ったが、一口目で不快な味がする。危なくて食べられたもんじゃない。急いではき捨てて、用を足しにトイレに行くが、ここでも何かあるのではないかと思うと、扉もおいそれと閉められない。家を出てからも油断は禁物だ。車は突然、私を引き殺そうとするし、刃物や銃で狙ってくる輩もうようよといる。

 そう。寝起きにぼんやりしてしまうことがないようにするには、起きている間、常に命を狙われていればいい。そう考えた私は、殺し屋に仕事を依頼した。もちろんターゲットは私。ただし、眠っている間だけは殺すことのないように、そのことだけは念を押しておいた。

 おかげで、今は起きたらすぐキビキビと動くことができている。ただし、一歩間違えたら、二度と起きられなくなってしまう身の上だけれども。


作品名:半睡半醒の微睡 作家名:六色塔