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呪縛の緊急避難

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「本当に好きになってほしいタイプの人は自分を見てくれないのに、なぜか自分が何とも思わない男の人たちが、何か嫌な目で見ている」
 と感じている。
 真美を始めとした、他の女性はそんなことは分からない。きっと先輩女性も、結婚が決まって、寿退社でもする頃にはやっと分かるかも知れないが、それでは遅すぎる。皮肉と言えるのではないだろうか。
 あいりという女性は、本当は優しい女性である。ただ、それが極端なところがあり、ある一部の仲間に対しては極端に優しい部分を見せるが、それ以外の人とは、実に淡々と接するのだ。だから、
「あいりって、いったいいつも何を考えているのかしらね?」
 という見方で見られることが多いようで、自分がそんな目で見られていることぉ知らないという、いい意味で純真無垢なところがあるのだ。
 だが、悪く見ようと思えば、いくらでも悪く見られるタイプでもあり、一度嫌いだと思われてしまうと、その誤解を解くのはかなりの至難の業であるに違いない。
 ただ、あいりは意気地のないところがあるようなので、そこまで人から徹底的に嫌われることはなかった。そういう意味では幸運だったと言えるのではないだろうか。男性からは純粋無垢に見られることが多いので、その分、純真無垢に見ている連中が、それぞれでけん制し合っているから、あいりに危険が迫ったことがなかったというのが、実際のところではないだろうか。
 あいりが就職した時は、真美とあいりとでは。あいりの方が人気があったかも知れない。しかし実際に男性から告白されたり意識されるのは、真美の方が多かった。
 その意見としては
「真美ちゃんは、人当りもいいし、普通に接することができるんだけど、あいりさんの場合は、近づきにくいオーラがありというか、本当に近くに近づくと火傷してしまいそうな気がするんだ」
 と意見が多かった。
 皆、ライバルに対しては面と向かって言わないが、考えていることは同じなんだろうとウスウス気付いているようだった。
 あいりは近づけない雰囲気があるせいか、ずっとその美しさは変わらないイメージだったが、真美の方は、どんどん可愛らしくなっていくさまが、男性に好かれる一番の理由ではないだろうか。
「女の子って、誰かを好きになると綺麗になっていくというけど、真美ちゃんは、人から好かれることで綺麗になっているような気がするんだ」
 というのは、真美が最初に付き合った男性の言葉だった。
 真美にとって、付き合うという思いを決定的にしたのがこの言葉で、真美の付き合う相手はいつも、付き合う理由をハッキリと持っていた。だからこそ付き合う気になるのであるが、なぜか真美は付き合い始めても長続きしない。どうも男性から最後はフラれているようだ。
「真美ちゃんは、飽きるというと語弊があるんだけど、付き合い始めるまでが好きになるピークなんだよ。彼女を堕として付き合い始めるようになると、満足してしまうというか、もうそこで気持ちが冷め始めるのかも知れないな」
 というのが、真美がすぐに男性と別れる理由だった。
 だが、その理由は他の人には分からない。そのせいで真美は、特に同性から、
「魔性の女」
 と言われるようになった。
 もっとも、魔性の女などと表現されるのは、男性からというよりも女性からと言われることが多いことで、きっと真美は本当にいわゆる「魔性の女」なのかも知れないと、思われていた。
「私、もっと普通の恋愛がしたいのに」
 と、真美はいつも嘆いていた。
 しかし、その嘆きを聞いてもらえる相手はまわりにいないと思っていた。あいりは男性から、
「近寄りがたい相手」
 と思われいたが、女性の中で真美からも、
「私とはまったく違う相手で、一緒にいると、私までおかしくなりそう」
 と思っていたほど、相当な距離を感じていた相手だったので、まさか心の奥を覗かせるなどというそんな大胆なことができるはずもなかった。
 そんな二人が仲良くなったのは、真美が、晋三と別れてからすぐのことだった。
 その頃までは、真美もまわりの男性から、ちやほやされるタイプだったが、晋三と別れたことで、今までであれな一人の男性と別れたくらいで取り乱すことのなかった真美が、それまでの様子がウソのように、悔やんでいたのだ。
 それまでは男性にフラれても、次があるというくらいにしか思っておらず、恋愛をゲーム化何かと勘違いでもしていたのかも知れない。
 あいりはそんな真美のことを、真美があいりに感じていたように、自分とはまったく違う性格だと思っていた。しかし、真美のように自分のことを考えていたわけではなく、真美の方がそのうち何かに気付いてくれて、近寄ってきてくれるという予感を持っていた。その思いは結果として当たっていることになるのだが、二人の間の性格からすると、本当は逆であってもよかったような気がする。
 それはきっと、お互いにまったく違う性格に見えて、実は似たり寄ったりの性格だったのが原因ではないだろうか。
 そのことをあいりは少しは分かっていたつもりだが、真美の方はまったく気づいていない。一見真美はあいりに比べると、人に気を遣うのがうまいように見えていたが、心の中で、
――人に気を遣うのは嫌だ――
 という思いが強いことで、その心の矛盾が、時々露骨に表に現れて、急に人に気を遣うことが億劫に思えてくる時があり、その雰囲気に、男性はしらけてしまうのではないだろうか。
 お互いに冷めた気持ちになって別れる原因ができるというのは、どちらが悪いというわけでもなく、仕方のない部分が大きいのかも知れない。
 要するに、真美は愛想がいいのだ。最初はその愛想の良さで、男性は真美をよく気が利く女性だと思うが、それは明るさからの錯覚であり、それに気づくと、すぐに別れに持っていく。だが、真美はそれを自分のせいだと思わない、そのせいで自分がどうしてフラれたのかが分からないという辛さはあるが、立ち直る時は、
――私が悪いわけではない――
 という意識が強いので、すぐに立ち直る。
「熱くなりやすいが冷めやすい」
 という性格ではないだろうか。
 だから、まわりから見ると、全体的にそんなに傷つく性格ではないと思われている。
 だが、それは一瞬の辛さをどれほどきついと本人が感じているかを分かっていないということでもあり。その思いが真美をまわりから勘違いさせるという状況を生み出してしまうのではないだろうか。
 あいりの方は、真美とは逆の性格のようだ、
 まわりからは、結構アッサリしているように見られるようなのだが、心の底で、いつも一人で何かを考えているようにも見えているようだ。
 それは性格的な暗さが滲み出ているからだというのもあるが、真美のように天性の明るさを持っているように見えているのに実際には、人に気を遣ったりするのが嫌だったり、愛想だけなのを見ると、あいりの暗さがさらに輪をかけているように見えるのだろう。そういう意味ではあいりにとって、真美が近くにいるというのは、損であると言ってもいいかも知れない。
 晋三は、あいりであっても真美であっても、その食指は動いている。自分に誰かが決まらなければ、とりあえず声を掛けてみるというのが、彼の心情だった。
作品名:呪縛の緊急避難 作家名:森本晃次