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空と海の道の上より Ⅷ

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 ホテルに帰ると九時前で、雑用を済ますともう十時。そのまま眠ってしまい四時前に起きて手紙を書き出す。
 
 部屋の窓から駅、その向こうに海が見えます。ここは九階です。今日は天気も良さそうで早く出ようと思っています。
 昨日の弥谷寺、出釈迦寺の後は、町中のお寺ばかりです。
 昨日金倉寺で会った運転手さんが、これから満濃池に行くと言っていました。私も行きたいなあと思いますが、歩くと随分かかりますので、今回はこれも止めまずは札所だけにします。
 葉書も書きたいと思うのですが、なかなか時間がなく、気になりながらそのままです。藤原さんにも(集金に行くまで書けるかどうか分かりませんので)よろしくお伝え下さい。

 今日は本も読んでいず、計画も立っていません。でもこちらは開けたところですので、ちょっと頑張って歩けば泊まるところもあり、高知のようなことはなく気も楽です。

五月三十日 午前五時四十五分
丸亀市丸亀プラザホテルにて


五月三十日(火)晴

 六時二十五分、ホテルの前の広い道を東に歩く。
 朝早いので車が少なく、ひんやりとして気持ちが良い。頂いた飴やお菓子でリュックが膨らみ、笠の後ろにあたって具合が悪い。
 十分ほど歩くと右正面に丸亀城が見える。正面に台形がかった山。土器川を渡る。その山のすぐ傍を通り宇多津町へ、左に宇多津駅。ちょっと右に入って七時二十分、七十八番郷照寺。

 手入れの行き届いた境内で、ちょうどさつきがきれいに咲いている。
 小高いところにあり眺めも良く、本堂でお経をあげていると海から吹く風が冷たく寒いくらい。始めは私一人だったが、拝んでいる間にお参りの人が増える。

 大師堂の前で、昨日金倉寺で会った徳島の運転手さんに会い、早いといってびっくりされる。陽気な人で、飛んできたのでは、と言われる。
 八時十分、出ようとすると、そのタクシーのお客さんに一緒に写真をといわれ、網代を被り杖を持って真ん中に。

 昨日電話で言われていたので、今日の歩く時唱えるお経は全部、菊屋さんのお婆ちゃん(近所のお菓子屋のお婆ちゃん)の為に、と思いながら歩く。

 宇多津の古い町並を歩く。郵便局の前で手押し車を押しているお婆さんに会い、飴を貰って頂く。お婆さんも気を使ってか五十円お接待して下さった。荷物が少し小さくなりほっとする。
 連子や白壁の家が並び、落ち着いた雰囲気のところを通って県道三十三号線へ。
八時三十五分、坂出市。良いお天気だが風がひんやりと心地良い。
 空き地があり休憩してパンとお茶を飲む。この辺は坂出の賑やかな通り。日陰に座ると少し寒い。

 九時二十分、高松まで二十一キロの標識。右前方にあまり高くない山がいくつか見え、左向こうにも連なった山が見える。道と平行して電車が走る。
 九時四十五分、小さな駅があり、そこからちょっと歩いて七十九番高照院。

 ここはお寺と神社が一緒になっている。入り口にいたおじいさんが本堂、大師堂、納経所の場所を教えてくれる。
 ここも一人だったがお参りしている間に団体さんが来て、納経所で待たされる。
 次への道順を尋ねると、歩いているのなら先に八十一番白峰寺、八十二番根香寺に行き、それから八十番国分寺に降りてくるのが良いと、八十一番への道順を書いてくれる。要領のいい地図で、間違いなく八十一番へ。国分寺には宿もあるとのことで、宿の名も教えて貰う。

 十一号線高架の手前を左に。十一時、うどん屋さんがあり、もうここから先食べるところがなさそうなので、お昼にする。とても安くておいしかったのでもっと食べたかったが、あまりお腹が大きくなると歩きにくいので辛抱。普通の店の半額位の値段だった。ちょっと辺ぴなところなのにお客さんが多い。

 十一時二十分出発。小さな川を渡り、さっき坂出で左に見えていた山のほうへ。牛小屋に気付かず歩いていて、急に牛に鳴かれびっくり。
 山に向かって畑の中の道をまっすぐ歩く。産業道路を横切り山裾へ。この辺は家も多い。市長選をやっていて「お願いします」の声が賑やか。山に沿って左に。道は良いが車の通らないのんびりした道。
 
 十二時十分、酒屋さんのある広い道に出る。地図に酒屋さんとあり、そこまで行ったら休憩と決めていたので、缶コーヒーを買い残りのパンを食べる。
 出かけようとリュックを掛けかけるとすぐ前でマイクロバスが止まり、見ると森本さんの一行。びっくりするが森本さんにも早いと驚かれる。

 歩く近道があると教えられ、私も持っている地図を見せると、それが一番近いとのこと。
 大須賀さんが窓からジュースを差し出してくれるが、荷物になるのでちょっと躊躇していると、森本さんが、
「重いのに、そんなものよりお金が良い。」と言われ、百円、ジュースでも飲むようにといって頂く。
 車の中と外で立ち話の後、歩き始める。

 白峰寺三キロ、根香寺七・六キロ、国分寺十・八キロ。ここからは山に上る。
 上り始め何気なく左を見ると、左前方に瀬戸大橋がきれいに見える。手前のすぐ下が畑、向こうに海と瀬戸大橋、橋の上のほうがキラキラ光り、この間渡った時より感激する。
 今日は天気も良く、海の色もきれいに見える。ここから眺める橋はちょっと遠いが素晴らしい景色。あまりきれいなので、時々振り返りながら歩く。

 十二時五十分、車の道と分かれて、ここからは歩く道に。草が生えているが石段の良い道。石段に腰掛け休憩していると、鶯や色々の鳥の声。高く上ってきたのでまた瀬戸大橋が見えるが、ずい分遠くなる。歩き出すとどっと汗が出る。
 もう少しでお寺というところで崇徳天皇陵へ行く道がある。そこからは手入れの行き届いたきれいな石段。

 一時十五分、白峰寺着。境内でまた森本さん達に会い、早いとびっくりされる。
 「足に天狗さんでもついているのでは」と、冗談を言われる。暫く話すうち、高野山のお寺を紹介してくれ、お寺の名前を書いた名刺を頂く。そのお寺には修業している尼さんがおられるので、その部屋に泊めてもらえば良いといわれる。
 大須賀さんも、もっとゆっくり来てぜひ泊まってくれるようにと言われ、私もそうしたいと思うが、これは成り行きに任せるつもり。
 今日も、心積もりでは順番通りに打って、ここに泊めて頂こうと予定していたが、お寺の方のアドバイスで逆打ちになってしまった。

 白峰寺の大師堂でお参りしていると、ガラス戸の向こうにお大師様のお姿。薄茶色の衣を着ておられ、真正面ではなくちょっと斜めの、胸から上のお姿でがっしりした体格の御方。初めてお姿を拝ませて頂く。

 後ろに何かあり、それがガラスに写っているのかと思い振り返るが、何もない。あまりのことにびっくりする。そして、見えるとか見えないの問題ではなく、いつも自分の心や行ないが、神仏の心に叶っているかどうかを問題にするように、との意味のことを教えて頂く。頭をすりつけてお礼を申し上げる。本当のお大師様のお姿はどんな方なのか、帰ったら日限さんにお尋ねするつもりです。

 二時十五分、お寺の前の遍路道を左に折れ、八十二番根香寺へ。少し歩くと摩尼輪塔があり、下乗石の説明、
作品名:空と海の道の上より Ⅷ 作家名:こあみ