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空と海の道の上より Ⅷ

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  五月二十七日(土)晴れ

 手紙を書き終えパンを食べて、六時四十分出発。お接待に頂いた飴やお菓子でリュックがいっぱいになる。
 昨日ふみ子姉さんに大体の方向を聞いていたので、昨日の遍路道まで戻らず、駅前の遍路石のところから歩き始める。広い道に出て市役所の前を通り、七時二十分、高速道路と平行した道を東へ。

 今日は朝から天気が良くて暑い。一生懸命歩いていてふと立ち止まり振り返ると、三島の町がずっと下に見える。高速の下を抜けて山のほうへ。池の傍を通り山道に。車一台通れるような舗装された道。
 七時五十分、休憩して座っているとひんやりして気持ちがいい。八時十分自動車道と合流、三角寺まで1㌔。土地の人の話では、昔の遍路道はもう通れないとのこと。

 八時半、六十五番三角寺着。最後の1㌔は汗いっぱいでふうふう言う。今日は土曜日なのでお参りの人が多い。お寺の中でも途中でも、よくお参りの人に会います。
 ここはかなり高いところで下のほうが煙っている。ここで雲辺寺に電話をする。泊めて頂けるとのことで今日は雲辺寺まで。

 九時五分、今度は自動車の道を東に下る。どんどん、段々畑を見下ろしながら下る。下ったところから椿堂に向かってまた上り。暑いので上りがこたえる。
 十時、雲辺寺五里の遍路石。少し広い道に出るがちょっとした上りが続く。陰に入ると涼しくほっとする。厳しい道ほど一心に、南無大師遍照金剛や光明真言が唱えられる。楽な道はなかなかありません。

 水筒のお茶が空になったのでお水を頂く。三島の町がずっと下に見える。横川を通って車一台通れるような細い道へ。
 十時四十分、四国横断自動車道の工事現場、山を削り大変大掛かりです。この辺はすごい段々畑で、山深く高いところです。古下田、領家を過ぎると下に国道、椿堂も見える。

 十時五十五分、椿堂着。椿堂は、
「弘仁六年(八一五)弘法大師がこの地に立ち寄られ、持っていた椿の杖を突き立て、当時この地に流行していた病を大地に封じ込めました。その後この椿の杖から芽が出て大樹になったところから、椿堂の名がついたと云われています」と書かれていて、こじんまりとしたきれいなお寺です。
 ここから雲辺寺まで十六キロ、納経所でご住職と思われる方が、
「今日は歩くのだったら開拓道路を通ると、天気も良いし見晴らしもいい。遍路道より三、四㌔遠いが。」と言われ、私も、
「遍路道に草が生えていて、蛇が出てくると嫌なのでそうします。」と言うと、
「蛇はお迎えと思えばよい。」と言われました。神社でおばちゃんにも自動車道を行くよう言われていたので、多分六時頃までには着けると思い自動車道を行くことにする。

 十一時半、国道に出て池田方面に歩き始める。国道に出てからはずっと上り道。
トンネルの手前に酒屋さんがあり、色々売っているようなので、(お店がなかったら困るので)お昼の用意にパンでも買おうと思って尋ねると、トンネルを抜けたところに店があるとのこと。喉が渇いたのでジュースを一本買うと、「お接待します」と言って下さり、座って飲みながら話をする。
 ここに立ち寄る色々なお遍路さんの話をしてくれ、この前通った七十才ぐらいのお遍路さんは、今までずっと車でお参りしていたが歩いて行くことを思い立ち、お大師様の苦労を偲びたいとお金も持たず回っておられた。とても品のいい方で、お堂などを借りて泊まり歩いていると、車でお参りしている時見えなかったものが、随分見えてくると話されていたなど、聞いていると涙が出てくる。

 暫く話を聞いていると、車で通りかかりアイスクリームを買いに来た奥さんが、私が歩いているのを見て、
「私も西国をお参りして、十一番で大変しんどかったのでお接待します。」と言って千円下さる。

 十二時四十七分、境目トンネル、久し振りのトンネル。トンネルを抜けると徳島県池田町。とうとう伊予も終わりました。ここでも愛媛県に向かってお辞儀をして心経をあげる。まだ讃岐ではありませんが、讃岐にもお願いしますと頭を下げる。
 一時、うどん屋さんに。一時半発、徳島へ八十二キロの標識。
 バス停佐野駅の信号を左に折れる。道を聞き、お茶を買った店の人に、
「一人で恐ろしいことないですか。私は恐ろしくて団体でないと行けない。」と言われるが、歩きながら、生まれてくる時も死ぬ時も一人なのにな、と思えてくる。

 ここからずっと上り。二時半、ずいぶん高いところまで上る。まわりは山ばかり。曼陀隧道トンネルを抜けると香川県野原町。ちょっと休憩するが、時間がかかりそうなので急ぐことにする。
 トンネルを抜けてすぐ右の道を、と言われていたが全面通行禁止になっている。でも歩くのなら大丈夫だろうと進む。通行止めなので何も通らない道を歩く。
 三時、見晴らしが良く、ここから眺めると山また山で、あとは何も見えない。途中で、山が崩れて道に塞がっている土砂の上を歩く。
 三時二十五分、遍路道と合流。見ると遍路道もきれいなよい道。ここの標識にゆっくり歩いても二時間、とある。一休みするが服も髪も汗でびっしょり。ここからは山に高冷地野菜団地と書いてある。

 歩いても歩いても上り。三時四十五分、旧曼陀峠。ずっと尾根伝いに歩くが、平坦な道ではなく上ったり下ったり。上りのほうがずっと多い。尾根伝いにつけられている高圧線の電線が、下から順に規則正しく連なってきれいに見える。

四時十分、休憩。冷たいお茶がおいしい。鳥の鳴き声以外何も聞こえない。
 畑にはキャベツが植えられていて、農家の人が仕事をしている。そのほかは人も車も全然通らない。途中から地道で石を敷いてあり、とても歩きにくい。良い景色を眺めながら歩くが、なかなか厳しい道です。菩提から涅槃へといっても楽な道ではありません。

高い所なので汗をかいて歩くが、風が冷たく気持ちが良い。最後はヒンヤリとした杉木立の中を歩いて五時二十三分、六十六番雲辺寺到着。ここは四国一高い所、千メートル近い山の中のお寺。
 お大師様が掘られたという井戸より汲み上げられた水を、立て続けに三杯も頂く。おいしかった。お参りして中に入ったのが六時。
 玄関に入ってお杖のないのに気付き探し回る。
 確かにベンチに置いてあったのにと思いながら、あちこち捜して、もう諦めかけた頃、遊んでいた子供が出してきてくれほっとする。ここではお杖を洗うバケツの水と雑巾を出して下さった。

 椿堂で雲辺寺に泊めて頂くと言うと、
「あそこ泊めると言うたか?あそこは泊めないんだがなあ。歩いていても泊めないんだが、泊めると言うたんならよっぽど機嫌が良かったんじゃろ。」と言われ、下の店の人にも同じようなことを言われる。
 本には宿坊ありと書いてあったのでそのつもりでしたが、上がってみると言われた通り宿坊はやっていないらしく、私は持仏堂の端の広いところに泊めて頂き、いつもとはだいぶん勝手が違います。でもお風呂も食事も頂き気持ちよく休む。

 目が覚め、寺の回りを少し散歩する。山深い杉木立の中、鳥の鳴き声のほかは何も聞こえず気持ちがよい。ここは今大師堂を建て直しているところです。  

五月二十八日  午前五時二十分
雲辺寺にて


五月二十八日(日)晴れ
作品名:空と海の道の上より Ⅷ 作家名:こあみ