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空と海の道の上より Ⅵ

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 早く着いたのでどうしようか迷っていると、納経所の人が今日はあいにくと満員で泊まれないとのこと。まだ早いので次まで行けると遍路路道を教えてくれる。後から来て拝んでいたお遍路のご夫婦が、歩いている私を見て拝んでくれ、少し話をする。

 二時半、お寺で聞いた遍路道へ。さっきのお遍路さんがずっと見送ってくれる。峠御堂峠を越える。
 三時十五分、山道を下りると峠御堂隧道。道を右に取り十分ほど歩くと右に下る遍路道。下ると河合。そこから車道を歩き、四時再び遍路道へ。道を尋ねたおばあさんに、
「お若い人を見るとお大師様のように思える」と言われつい涙が出てしまう。

 石段を上り、五時、八丁坂へ。二、三十分は名前の通りすごい坂で、はあはあ息を切らせながら歩く。本格的な山道。上り切った所であと一・九キロの標識。
 道端に「まむしに注意」と書かれていて、それを見た途端恐くなりビクビクしながら歩く。

 段々日が暮れて来るのになかなか着かず、少し心細くなる。
 五時四十分、三十六王子の岩場の行場に。ちょっと下ったところに山門。岩場を下りたところ急に山門が現われ、薄暗い中の大きな仁王様にビックリ驚く。でも、やっとお寺に着きほっとする。

 遅くなったので先にお納経を済ませ、本堂に。最初は気付かなかったが、ふと納経所の方を見てまたビックリ。すごい大きな岩に納経所がくっついている感じ。上から覆い被さっているようで余りの大きな岩山に驚いてしまう。
 深い山の中の、岩山に覆われたお寺で、圧倒されるが気持ちが良い。岩屋寺というお寺の名前がピッタリのところ。もっと長く居たいと思うが日が暮れてきたので下に下りる。バスや車の人は下から上って来るのだが、すごく急な坂と石段。降りるのに十五分ほどかかる。

 六時半過ぎ、すぐ下の民宿へ。
 ここはすごいところです。すぐ近くにある国民宿舎に泊まり、明日岩屋寺へお参りすれば良かったかなと思ったりもしましたが、食事の時、目の前に八十八か所のお軸が掛けてあり、お大師様に早く松山、神社に行くほうが良いだろうと言われているようで、そうだ少しでも早くお参りするほうが良いと思い直す。

 よくお遍路さんや町の人から聞くのですが、宿坊のあるお寺では、団体さんは泊めるがどういう訳か個人ではなかなか泊めて貰えない。徳島や高知ではそんなことはありませんでしたが、私も愛媛に来てから全部ではありませんが泊めて貰えない所が多く、面倒とか色々な理由があると思うし、勝手な考えかも知れませんが、お大師様の心に沿わないようで淋しい気がします。

 今日はお昼からずっと山ばかりだったので、汗をかきすぎたのか、いくらお茶を飲んでも喉の渇きが止まりません。明日は遍路道を行かず国道を四十六番浄瑠璃寺へ行くつもりです。とうとう松山です。先が見えてきたようで嬉しくなります。松山に行ったら半日くらい休憩するつもりです。

 大宝寺から岩屋寺まで、健脚の人で二時間半と言われましたが、私は三時間十五分かかりました。この道はなかなかしんどく、夕方になったこともあり、ゆっくり山道を楽しむ余裕はありませんでした。

五月十九日 午前五時三十五分
岩屋寺下民宿にて   



五月十九日(金)雨
 
六時に食事を頂き、外を見ると雨。早速合羽の用意。洗濯物が乾いていず、今日泊まるところによっては着るものがない。

雨なので昨日決めていた通り県道へ。宿のおばさんの言葉によると観光用の遊ぶ道らしく、その道を歩く。
昨日の遍路道とはまた違い、山の上のほうに岩が切り立って、左を流れる川は素晴らしい渓谷美、車も通らず気持ちがよい。こちらの方が景色が良いかもしれない。
 七時、清瀬橋。両側から川が流れここで合流している。十分ほど歩くと左側にすごく変わったきれいな昔風の家。屋根の勾配がきつく藁葺のようで、雨の中しっとりと建っている。とても感じが良く手入れが行き届いているように見える。
 合掌苑岩屋とすぐ傍の国民宿舎の前に説明書き。ここに休憩できるところがあり、合羽の下がむれるので半袖に着替える。雨の日に屋根のある休憩所に出会うと本当に嬉しくなる。

 昨日出来なかったので家に電話。国民宿舎の食堂には電気が付いてBGMが流れ、ふと私もここに泊まれば良かったとも思うが、遍路には私の泊まったところがふさわしいような気もする。しばらくは観光コースのきれいな道を歩く。

 八時半、ずっと上りだったがここから下り。
 昨日遍路道に入った八丁坂入り口、宿からここまで一時間四十五分。昨日の山道とほぼ同じ位の時間がかかる。
 十分ほどでふるさと村入り口に、ふるさと駅休憩所があり、休憩。この辺は昨日通った道なので安心。九時半、峠御堂トンネル。昨日はここから遍路道だったが、今日は県道へ。遍路道は少し杉が倒れていて歩きにくく、その上この雨では大変なので。

 九時五十分、峠を下って久万公園、左に大宝寺に入る車道。ここにも休憩所があり休憩していると、道路を直しているおじさんたちも入ってきて話をする。
 三坂峠からは旧道があるが行かないほうが良いと思う、塩ヶ森から入るようにと教えてくれる。
 観光バスのお遍路さんが、大宝寺のお参りを済ませ久万の町の方に。週末になるとお遍路さんが増えてきます。
 十分ほど歩いて国道三十三号線に。右にとって松山三十二キロの標識。
 道沿いのスーパーでパンとオレンジを買う。国道に出た途端車の量が多くなり、擦れ違う度に細かい水しぶきが顔に当り大変。
 十一時二十分、本明神バス停で休憩。お腹が空いたのでさっき買ったパンとオレンジを食べる。
 歩き始めるとすぐに喫茶店があったが、休んだところだったので三坂峠に着いてから休もうと歩き続ける。

 十二時四十分、三坂峠。
 峠の店の手前に遍路マーク。入り口は草ぼうぼうで雨も降っているし、国道を行くつもりでお店に。
 うどんを食べ、泊まるところの予約をしていると、店の若いお兄さんが、
「そこはとてもよいお宿です」と言ってくれる。それから、
「国道を行かず遍路道を行くよう、国道は味気なくていけません」と言われるので、
「遍路道は通れますか」と尋ねると、
「大丈夫、去年通りましたがしっかりした道です」と言われ、遍路道を行くことにする。 

 この店はカウンターの向こうはガラス張りになっていて、天気のよい日には松山市内はもちろん、広島のほうまで見えるとのこと。今日はガスがかかっていて何も見えないのが残念。
 でも気持ちのよい椅子に座り、ぼんやりしていると気分がほぐれる。雨の中を歩いていたのが嘘のように感じられる。

 一時十五分、出発。すごい雨になってきたが遍路道へ。
 雨が降るので水が流れ歩きにくいが、石鎚山のようなとてもいい山道。すごい急な坂道で滑りやすく沢ガニがいっぱいで、踏まないように歩くのに苦労する。旧久万街道と書いてある。
 二時、休憩所がありリュックを降ろし休む。店で入れてもらった熱いお茶を飲む。四国の道にはところどころに、同じ型の屋根のついた休憩所がありとても助かる。
作品名:空と海の道の上より Ⅵ 作家名:こあみ