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空と海の道の上より Ⅵ

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「このすぐ近くにお大師様のお堂があり、お通夜をする人もいる。もし良かったら家に泊まってくれても」と言って下さるが、
「今出てきたところで、今日は小田町まで行きますので」と答える。バスが来たのでお別れ。

 桃、梨の直売所の看板が並んでいる。
 十一時二十分、和田トンネル。畑の桃が大きな梅の実ぐらいになっていて、明代さんのところも間引きを済ませたかなと思う。
 歩いていると鶏が鳴くので、振り向くと石仏。四国は山路の岩のくぼみとか、ちょっとした所に仏様やお大師様がお祀りしてあり、この前にも書いたと思いますが、最近は気付かずに通り過ぎようとすると、ふと気付かせて下さることがよくあります。今も鳥が鳴かなかったら気付かなかったのですが、数歩後戻りして手を合わせる。 

 道沿いの誰もいない大きな資財置場を借りて、パンとお茶で昼食。山の中なので、たまに雑貨屋さんのような店がある以外は何もない。でも道はよく、歩道も広く歩きやすい。時々屋根のついたバス停もあり、雨だというのに思っていたより楽に歩け、助かる。
 この辺も十二時に町中に聞こえるような大きな音でスピーカーから音楽が流れびっくりする。小田川を渡り大瀬に入ると、急に道が細くなる。
 徳島ナンバーの車の人が、「全部歩いていくのですか」と声をかけてくれる。この辺まで来るとすぐに「乗りませんか」とは言われず、先に歩いて行くつもりかどうか聞いてくれる。

 大瀬の少し人家の多いところにお寺があり、この先店もなさそうなので、お寺ならお願いしやすいと思い、通り過ぎたのを戻ってトイレを借りる。
 若いきれいな奥様が出られ、用を済ませ靴を履きかけると、「ちょっと休んでいきませんか」と言って下さり、今日はあまり急がずとも良いのでお茶をご馳走になる。

 色々話しているうち、ふと母の里が伊予の豊田で、伊予三島に昔行ったことがあると話しますと、その奥様は、
「私の里は伊予三島で、今日は里の両親が高野山に行っています」と言われ二人とも驚く。文子姉さん(従姉妹)の料理学校にも行ったことがあるとのこと、私は話だけしか知らないけれど、親しさが増したようで嬉しくなる。
 お兄様を亡くされ、今は里はご両親だけとか。

「人間はいつ死ぬか分からない。私もお参りしてみたいと思ったこともあるけれど、今は子供もいるし出られそうもない。好きなことを思い切ってできて、お幸せね」と言われ、本当にそう思います。
 お友達が来てその方に、
「お遍路さんが見えとるんよ。お若くてきれいな方じゃったけん上がってもろうたん。誰彼は上げんのやけど」と言われ嬉しくなる。
 参観日というので一時頃失礼する。お接待にとお金まで頂き、ご縁て不思議だなと思いながら雨の中を歩く。

 二時半、小田町に。町に入ってすぐに食堂。休憩におうどんを食べる。ここから町まで一時間、と店のおばさん。
 お手洗いを借り靴下を履き替える。
 前は上に上がったらまた濡れた靴下を履いていましたが、一緒になったお遍路さんに、靴が濡れていても靴下を履き替えたほうが良いと教えられ、以布利でそうしたら楽だったので、それからは雨の時、上に上がることがあったら履き替えるようにしている。やはり履き替えたほうが楽。 

 ここからは道が二つに分かれ、四十四番大宝寺にどちらからでも行けると矢印。おばさんに聞くと大抵は小田に出るとのこと。私も少し前に宿を予約してあり小田へ。
 山深いのかすぐ近くの、あまり高くない山に雲がかかっている。足のあちこちが痛い。天気の日でも少し痛いが、特に雨の日は冷えるのか急に痛くなることがある。
 三時半、人家が多くなり小田の町に入ったよう。やっと家が並んでいるところに。

 四時十分、着。とても寒くて部屋にストーブがあったので火をつけ服を着替える。
 四十四番、四十五番と順に回ると同じ道を戻るので、逆回りにしようか迷うが、もしかして中島さんがバスで来るかもしれないし、やっぱり順回りにと決める。

 電話をするのに外に出て、ついでにスーパーに入る。丁度旅館の奥さんと一緒になり、明日の道を尋ねると、曲がりくねった道で久万までお店もないとのこと。パンとオレンジを買う。少々大変な道らしい。
 予報では曇りと言っていたが、朝起きるとまだ雨が降っている。今日はちょっときついかもしれないが、一日頑張ろう。もうすぐ松山と思うと涙が出そうになる。

 ここは古い旅館だが、部屋が広くてゆったりしている。ここ何日かはゆったりした部屋で助かっています。朝からストーブで洗濯物を乾かしています。

五月十八日 午前五時二十分
小田町ふじやにて


五月十八日(木)雨のち晴
 
 六時半に食事をお願いして待っているのですが何とも言ってくれず、七時に下へ荷物を持っていきますと、暫くして奥さん来られ、寝過されたとのこと。
ここはスナックと喫茶店もしていて、ここ二、三日寝るのが二時頃だったのでつい寝過してと、慌てて食事の用意をしてくれる。あまり早く言いすぎて申し訳なかったかと恐縮するが、お店の方も恐縮される。ちょっと困りました。

 七時二十五分、出発。少し歩いて左に曲がり、日野川を渡るとすごい山の中に入っていきそう。
 雨が降りだしたので合羽の用意。自転車で学校に行く数人の高校生ぐらいの子と擦れ違う。往きは下りでよいが帰りは大変だろうなと思う。

 八時五分、雨が止んだのでちょっとした小屋で合羽をたたむ。曇っているがもう降らないようだ。少し歩くと店があり、電話を借りようと話をすると、大宝寺まで二十キロ位でお昼過ぎには着けるのではといわれる。お寺に宿泊の予約をしようと思っていたが着いてからのことにする。
 この辺は急な山の所に段々畑があり、家も道沿いにはなく山の上のすごいところに建っている。今日も左足が痛く歩いている時はそうでもないが、立ち止まると痛くて左足に力を入れられない。

 九時、小田町大手、遍路道マークがありどうしようか迷うが国道を行く。後で聞くと、この道は町の人が使っている道で通れるとのこと。山に低く雲がかかり、日本画のように美しい。雨に濡れて網代笠が重いので、今日は持って歩く。
 九時四十五分、小田町大平。トンネルの手前、道の広いところで休憩。随分高く上って来たが上りばかりなので、足摺のように上ったり下ったりよりも楽な気がする。車もあまり通らず気持ちが良い。

 十分ほど休んで真弓トンネルへ。できて間がないきれいなトンネルで、七百メートルばかりあるが車が通らず、あまり明るすぎて何も通らないとかえって気持ちが悪い。抜けると久万町。ここから下り。
 トンネルを抜けると景色が変わり、こちらのほうが山も低く緩やかで平地も多い。この辺は今が田植えの最中。蛙の合唱が聞こえる。

 十一時、お腹が空いたのでパンとお茶で食事。
 十一時五十分、二名川露峰橋。小さな川だが橋の上から上流を眺めると、木が覆いかぶさり奥が見えずなかなかきれい。
 十二時、道を左に取って国道三十三号線に出る。
 落合隧道を抜け十二時四十五分、遍路道へ。久万の町の中を通る。商店街から右に曲がり四十四番大宝寺へ、一時三十七分着。
作品名:空と海の道の上より Ⅵ 作家名:こあみ