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空と海の道の上より Ⅳ

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 足摺を今朝四時半に出てきたというタクシーのお遍路さん、運転手さんと体操をしながら話をする。逆回りで来ると歩いているお遍路さんにずいぶん会うそうです。今朝も二人見かけたとか、今年は歩いている人が多い、こんなことは珍しいとのこと。
 全部歩いていると言うと「大したもんじゃ」と言われました。昨日、納経所の人もそうおっしゃいました。今では「えらいね」から「大したもんじゃ」に変わってきました。

 自分では一日一日のことですからそんなに遠くに来ているとは思いませんが、改めて地図で見るとよくまあここまで歩かせて頂いたものだと思っています。
「お大師様に連れられて、お大師様の言われる通りにしたら、間違うことなくここまで来れました」と言うと、また感心されました。でも私は、お店の人や知らない人にお尋ねして教えていただいたこと、それは皆、お大師様がその方達を通して教えて下さっているように思えてなりません。ですから言われることを素直に(もちろん正しいかどうか確かめもしますが)聞いて、ここまで導いて頂きました。

 朝食を頂いて宿泊代をお支払いしようと尋ねますと、歩き遍路さんですからと三千円にして下さいました。きれいな部屋でおいしいご馳走を頂いて申し訳なく思いましたが、お言葉に甘えました。
 納経所にいらっしゃる奥様にお礼を申し上げると、「気をつけて行っていらっしゃい」と言って下さりとても嬉しくなりました。

 七時十五分、中村四十六キロ、足摺八十一キロの標識。霧の中を気持ちよく歩く。
 朝はいつも気持ちよく歩けます。岩本寺から峰の上というところまでは一時間ほどちょっと上り。そこからは昨日の反対、どんどん下っていきます。八時頃から霧も晴れ良い天気。
 九時、朝食に付いていた牛乳と卵で休憩。昨日とは違った明るい感じの山道です。山の中、ちょっとした所にも段々に田圃があります。

 佐賀町市野。橋の上から左下を見ると、段々畑は田植えの最中、端のほうに小川が流れその回りを山で囲まれ、まるで鶯の精のタンスの引き出しを開けたときのよう。絵より美しい昔話の世界です。鶯の鳴き声も聞こえます。しばらく見とれていました。

 伊与木川沿いをどんどん下ります。この辺には、ここまでもずっとそうでしたがまだ鯉のぼりが泳いでいます。旧の節句まで上げるのでしょうか、変わった鯉のぼりを眺めながら歩いています。伊与木川はとてもきれいな川で水量も豊か、水の色も少しエメラルドがかっています。四国の川は本当にどこもきれいです。

 十二時、もう少しで佐賀町に入るというところで食事。納経所で「明日はどのくらい行けますか」と尋ねると、
「そうじゃな、大方町伊田のあたりまで。あそこなら泊まるところもある」と言われたのですが、お大師様は中村へと言われます。私は中村まではとても無理に思われますが、とにかく行きますとここまで急ぎました。
 店の人に聞くと伊田はすぐそことのこと。それで「中村までは」と尋ねると、窪川からここまでよりすこし遠いとのこと。やはり中村まではちょっと無理なので大方町のなるべく中村寄りを地図と電話帳で調べ、入野町の民宿に電話。今はやっていないのでと別の旅館を紹介してもらう。予約して、それで良いですかと聞くと良いとのこと。

 佐賀町の郵便局にお金を出しに行くがキャッシュコーナーが無い。入野にあるとのこと。

「車だと十五分くらい、歩いてなら多分四時半くらいには行けましょう、六時まで開いていますから」に、ともかく歩き出す。

 佐賀町に来ると、また国道は海岸線。
 一時十五分、幡多十景の鹿島浦湾の入り口に鹿島が浮かぶ。海と国道の間は公園になっていてとてもきれい。お弁当を持って一日遊べそうなところ。私も一時間くらいのんびりしたいと思うが、お金を出さないといけないので歩きながら眺めるだけ。
 ここにもアイスクリンのおばさん。高知には名所や車や人の多い所には必ずピーチパラソルを広げ、腰掛けたアイスクリン売りのおばさんがいます。

 左に海、右に時々かわいらしい一両の電車が通るのを見ながら歩く。ここも長い海岸線の歩きだが所々に人家があり、室戸のような人里離れた寂しさはありません。時々道行く人が声をかけてくれる。

 昨日の若い人が、
「電車やバスに乗る時は白衣を脱ぐが歩いている時は白衣を着る。
 連休は泊まるところがなく、二日ほど観光客としてブラブラしていたが、誰も話す人もなく淋しかった。
 お遍路の格好をしていると誰ともすぐ話が出来るし、どこに座り込んでも気を使わずにすむ。遍路姿はとてもいい」と言っていましたが、本当にそうかもしれません。私は白衣を脱いだことがないので皆さんに良くしてもらっているのかも知れません。
 白浜海岸や入野松原の美しい海岸線を眺めながら入野目指してどんどん歩く。歩き遍路の逆回りの人と擦れ違う。

 しばらく行くと車が止まり、中から「お接待」と袋を持って出てくる。見ると昨日岩本寺で一緒だった人。びっくりして「どうしたの。いい車に乗って」と言うと、今朝窪川から宇和島まで電車で行き、レンタカーを借りて足摺を回りここまで来たとのこと。
 私はまだ歩いているかな、もう宿に入って会えないかなと思いながら来たという。
 私が「入野まで歩いて郵便局に寄らなければ。もう三十分くらいかかると道路整備の人に言われたので急いでいる」と言うと、
「お遍路さんは四時には宿に入ると聞いている、朝七時に出てちょうど八時間」と言われ、
「私はいつも六時くらいになってしまう。切幡では七時前になり宿の人にもう来ないと思ったと言われた」と話すと驚いている。今日はこれから足摺まで行き、夕日と朝日を見るとのこと。
「いいね、私はまだ足摺までもう一晩泊まらないといけないのに」と羨ましい気持ちになる。
 海の向こうのずっと先にかすんで見えるのが足摺と教えられ、嬉しくなる。しばらく話して「また、足摺で会おう」と別れる。私も足摺を眺めながら歩き出す。

 五時、旅館着。郵便局を尋ねると1キロ先とのこと。おじさんがここなら乗ってもいいでしょうと自転車を貸してくれる。
 自転車に乗ると何と速いことかとビックリする。四国に来てはじめて乗物に乗る。お蔭でお金も出せたので靴も買う。靴は後ろが駄目になり、毎日ソックスが破れていた。

 夜、「明日清水まで行けますか」と尋ねると「清水まで行くと遠回りになる」とおじさんが部屋に来て、丁寧に道順と泊まるところを教えてくれる。
 ここに三年に一度、歩きの順拝の人が来るそうです。その人たちは年寄りが多く、そのうちでも女の人が多く、荷物は別の車で運ぶとのこと。いつも同じところに泊まり同じコースだそうです。

 窪川から入野まで来た私の足では多分以布利迄行けるだろう、以布利まで行けなくても下ノ加江からなら一日で十分足摺まで行けるとのこと。
 それで私は以布利まで行って、明くる日早くても足摺に一泊するつもりです。次の延光寺迄の行き方も教えていただく。その順拝団でも二日で行けるとのこと、本に載っていない道を教えて頂く。

 昨日も大手山さんのことを拝みましたが、今日も一日お願いするつもりです。

 五月九日 午前五時四十分 入野町うすき旅館にて

作品名:空と海の道の上より Ⅳ 作家名:こあみ