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空と海の道の上より Ⅳ

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 朝、お菓子とコーヒーを頂いて六時四十分発。他のお客様はまだ眠っている様子。
 道に出ると電話があり、昨日出来なかったので早速電話。少し雨がぱらついてきたので合羽を出し雨の用意。

 七時十分、焼坂トンネル。ここから中土佐町。
 トンネルの中を歩きながら、電話の、「心配していたんやぞ。」の言葉に家のことや、出発の日に、皆が見送ってくれた姿を思いだし、涙が止まらなくなる。長いトンネルを出ると、雨が止み青空も見え始める。

 ふと、私はただ毎日歩いているだけで、泊まるところや暖かい蒲団、それにおいしい食事もある。それでもこんな気持ちになるのに、戦争で遠い外国で死んだ人達はどんな思いでと思うと、何とも言えない申し訳ない気持ちになり、今日唱えるお経は英霊のためにあげさせてもらおうと決め歩き出す。
 合羽を脱いだのと下りのせいもあるが、いつも他の人のためにと心を決めて歩き出すと不思議なくらい足が速くなる。何だか、仏様のご加護を頂いて後ろから押して頂いているように感じる。

 八時、窪川まで二十二キロの標識。雨のあと、空気が澄んで緑が映え何ともいえない美しい景色。雨に洗われたきれいな山を眺め、お経を唱えながら歩くと元気が出る。岩本寺に泊まろうか、佐賀まで頑張ろうか迷いながら歩く。

 久礼駅前、八時五十分。車にひかれそうになり慌てて消災呪をあげる。
 国道は歩道が右になったり左になったり色々変わるのです。それで、向こうに渡ろうとしたら車が来た。
 よく晴れてきて日差しが暑い。濡れた手袋をはめているとすぐ乾いてしまう。恩山寺あたりから、朝出るとすぐお世話になった宿にお礼のお経を唱えています。

 九時十五分、ちょっと休憩。安和からはずっと上り下りの坂道でなかなか厳しい。前に一緒になったお遍路さんから、一時間歩くと少し休むほうが、疲れにくく楽と聞いていたので、私もそのくらいでしんどくなったらちょっと休むようにしている。
 すごい汗ですが蒸発するので合羽を着ているよりはるかに楽。薬王寺で山本さんから頂いた飴を食べまた元気が出る。

 九時四十分、久礼第一トンネル。だいぶん高いところまで来たのか、まわりの山々がずっと同じような高さに連なり、むこうに海が見える。少し歩くと、さっきの山が下に見え頂上が近い。

 十時三十五分、七子峠、ここから窪川町。
 昨日休んだ喫茶店で、昔は山賊の出たところと聞かされていたが、久礼から七子峠迄は国道の車がなければ、今でも山賊の出そうなところです。
 ここからは平地が多く、人家もあり畑や田圃も見え、峠のあとすぐにこんなところに出るなんて信じられない感じです。

 七子峠からは下りの道で、一時間ほど歩くと大きな椿の木があり、赤い花がたくさん散っている。町の天然記念物のお雪椿で、盛りを過ぎているのが残念です。

 十一時五十分、窪川まであと九キロの標識。
 お腹が空いたのでパンを買いに入るが食べたいのがなく出てくる。近くの店でお好み焼きを食べる。
 ここから窪川までまだ二時間近くかかりそうなので、岩本寺に泊めてもらおうと電話。「食事は出来ませんが」といわれたが、食べるところはたくさんあるとのことなのでお願いする。

 今日は窪川までと決めたので、あとはゆっくり楽しみながら歩く。朝、少し飛ばしすぎたのか足が痛い。足首から下がジーンとしびれるような感じ。靴が濡れて冷たいせいかもしれない。

 二時五十分、窪川駅前。駅前のスーパーで手袋やティッシュなど入り用のものを買う。手袋はお杖を持つため二、三日で親指と人差指のところが破れてボロボロになります。

 三時十分、三十七番岩本寺着。ゆっくりお経をあげて納経所へ。
 宿坊に入れて頂くが新築でとてもきれい。どの部屋にもお花が生けてあり、気持ちが良い。早く着いたのであちこちに葉書を書く。森田さんにお礼の葉書を書いていると、出来ないといわれていた食事を作って下さるとのこと。有難くお願いする。

 食事は、ここはユースにもなっているので若い二人の男性ホステラーと一緒。最初は黙って食べていたが、
「一昨日、青龍寺を歩いていませんでしたか。僕見かけました」の言葉をきっかけに話が始まる。それからお遍路のこと、衛門三郎の話、私の体験、若い人の体験と話が弾み、八時過ぎ別れる時、「良いお話を有難うございました」と言われ、私の拙い話でも若い人にも少しは分かってもらえたのかと嬉しい気持ちです。

 お接待を頂く話になり、私が勿体無いほどたくさん頂いた話をすると、
「僕はジュース一本、えらい違い」と言われました。また、
「非常食も保険証も持っていない」と言うと、
「無謀ですよ。せめてカロリーメイトくらい持っていないと、山の中で足でも挫いたら大変ですよ」と言われ、私はお大師様が守って下さっているから、絶対そんなことはないと信じていますが、若い人のことも素直に聞いて明日からはパン一個くらいは持って歩くようにします。

 広い宿坊にお遍路の泊まりは私一人です。真中が廊下、両側に部屋がいくつもある二階にたった一人、静かで気を使わず気持ちがいいです。たまにはこんなこともあるのですね。
 さっきの若い人が連休は満員で、高知では泊まるのも大変だったとのこと。私はちょうど森田さんのお宅に泊めて頂き、本当にお蔭様と思っています。
 ここは洗濯機、乾燥機もあり久しぶりにきれいに乾かせて気持ちが良い。少し長く話をしたので洗濯が遅くなり今、十時半、もう休みます。

 ここからは朝起きて書いています。肩がすごく痛いので体操をしようと思っています。それからジョギングシューズ駄目なので、新しいのを買おうと思っています。
 雨の日は宿に着くとすぐ新聞紙を詰め、紙が湿ったら何度も取り替えます。そうすると、朝少し湿っていますがあまり気持ち悪くなく履けます。

 中村までは五十数キロあるそうですので、一日ではちょっと無理のようです。大方町伊田と言うところに民宿があるとのこと、そこまで歩くつもりです。

 荷物、少し送り返しました。お金が少なくなってきましたが、今日、明日どこにでも下ろすところがありそうです。ちょっと計算すると今まで大体一日に平均七千百五十円使っています。大体計算通りです。なるだけ無駄遣いをしないようにしていますが、あまり疲れるとつい喫茶店に入ってしまうことがあります。
 若い人はビールを飲んだり結構使っているとのこと、私は出されたもの以外何も頼まず、決まった料金以外支払ったことがありません。
 でもお昼はパンで済ますとのことに、私もそのようにしようかと考えています。最近はなかなかお弁当を作ってもらえなかったり、雨だったりするので外で食べることが多いものですから。

 五月八日 午前五時 三十七番岩本寺にて


 五月八日(月)曇りのち晴

 手紙を書き終わって窓を開けると外は霧。朝からすぐそばを電車が通る。洗濯物は全部乾いたし、部屋はきれいだし、今朝は気分がいい。

 六時過ぎ、出発の用意は出来たのですが、食事がまだなので本堂にお参りする。もう参拝客が来てお経を上げている。
作品名:空と海の道の上より Ⅳ 作家名:こあみ