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空と海の道の上より Ⅲ

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「昨日の手紙をまだ書き終わっていないので、どこか喫茶店ででも書き上げて、それから寄せて頂きます。」と電話すると、
「うちは誰もいないからうちに来て書いたらいい。」と言って下さる。安楽寺から西に二十分くらい行ったところにお店。そこから少し歩いて居宅がある。
 お店に伺うと早速家のほうに連れていって下さり、お茶を頂いた後お昼まで手紙を書く。グラタン、お魚の照り焼き、ほうれん草のおひたしなどたくさん、私だけの為にお昼ご飯を作って下さる。あまり美味しいので全部頂く。

 少しでも先に打ち終えておけばと、乾いていない洗濯物を干させてもらい、頭陀袋だけを持って竹林寺へ。教えて頂いた通り電車道を歩き、はりまや橋を歩きながら見物、繁華街を通って五台山竹林寺へ。五台山の下の所で車の道を歩いていると、上から歩いてきたおじいさんが遍路道を教えてくれる。
山の上に登ると見晴らしが良く、家族連れがのんびり昼寝などしている。私もこんなところで昼寝したいなと思ったが、竹林寺へ。ここも大勢のお参りの人。同じ道を帰り森田さん宅へ。

 いつも先へ先へと行くので同じ道を帰るのは始めて。大通りから昼に教えて頂いた所まで来ると、森田さんが自転車で立っている。ここから先が分からずどうしようと考えながら来たが、待っていて下さりほっとする。と同時にどうしてと思う。
「よう帰ってくるろうか。道を間違えたのでは。」と奥さんと別々の所でそれぞれ迎えに来てくれたとのこと。心からの親切に嬉しく思う。
 家に着くとすぐ、
「貴方はお客様じゃきに。」と一番風呂を進めて下さる。
「私はあとで結構です。」とお断りするが、あまり進めて下さるので申し訳なく思いながらも、先にお風呂に入れて頂くことにする。
色々とたくさんご馳走して下さり、話をしながら楽しい夕食。まるで親戚の家に居るような気分。話は尽きないが「また明日早いきに。」と寝るように言って下さり、休ませて頂く。きれいなお蒲団で、お大師様をお祀りした床の間のある部屋に寝かせて頂く。五時過ぎまでぐっすり眠る。こんなに良く眠れたのは出てきてから始めて。
 朝、お大師様の前でお礼のお経をあげていると、勿体無くて涙がこぼれる。
今朝も、今日明日とお店が休みだというのに五時前から起きて私の為に朝食、お弁当を作って下さる。本当は四日まで大阪にいる予定を私の為に早く帰り、このように泊めて下さり、それを喜んでいらっしゃる。善根宿は本で読んで知っていたが、まさか自分がそこに泊めて頂くようになるとは思ってもみませんでした。まるで、お大師様の代わりにお接待して頂いているようです。これはお接待を頂く時いつも思うのですが、本当にお大師様の余徳を頂いているのだと思います。なんとも勿体無い有難いことです。

 四日六時三十分、森田さん宅を出発。
曲り角で振り返るとまだ見送って下さっている。頭を下げ歩き出す。お世話になった森田さんと、一緒にお参りしていた依岡さんから、お弁当代にと頂いたお接待のお礼にお経を唱えながら歩く。
あまり一生懸命お経を唱え下を向いて歩いていたので、ふと見上げると五台山が見えない。一筋間違えかけて手前の交差点まで戻る。昨日の道と安心しすぎたのかもしれません。やはり時々は立ち止まって確かめなければ、ただ歩くだけではとんでもないところへ行ってしまいます。本当に人生と同じだと思います。がむしゃらに働くばかりでなく、時々道を確かめまた進んでいく、いい勉強になります。川沿いを歩いていると、トンネルが修理中のため通れないと、わざわざバイクを止めて女の人が別の道を教えてくれる。

 九時、大きな木のそばにお地蔵様。木陰になっていて腰掛けもあるので、リュックを降ろしちょっと休憩。森田さんに頂いた小夏を食べる。これは黄色い色をした蜜柑でこちらではよく見かけますが、和歌山で見たことはありません。とても美味しい。食べ方がちょっと変わっていてリンゴや柿を剥くように白い部分を残して皮を剥き、輪切りにして内側の白い皮ごと食べます。
 途中、小さな峠で車椅子の人に会う。「少しですが、これを」とお接待のお金を頂く。お礼を言って通り過ぎると思わず涙がこぼれる。お幸せを願ってまたお経を唱える。

 三十二番禅師峰寺は小さな山の上にあり、汗びっしょりになって石段を歩く。途中で「失礼ですが」といってまたお参りの方がお接待の金を下さる。
十時二十五分着、お参りして十一時。お腹が空いたので少し早いが、砂浜や下に広がるビニールハウスの畑を眺めながら美味しい昼食を頂く。久しぶりにおかずのついたお弁当。心から森田さんに感謝する。

 十一時三十五分、峰寺出発。さっき上から眺めた道を通り浦戸大橋へ。途中、日本珊瑚センターの前を通る。休憩にちょっと立ち寄り、きれいな珊瑚を眺める。お遍路姿の人でいっぱい。おみやげに私も買おうかなと思ったがやめる。歩き出すとなぜだか分からないが泣けてくる。

 車で渋滞の浦戸大橋を渡って桂浜へ。大きな長い橋で、高いのでここからの景色はなかなかの絶景。車は全然動かず歩くほうが早い。本に桂浜のほうに下りると書いていたので、勘違いをして本当に浜に下りてしまった。ここも観光客でいっぱい。その人たちに混ざって白装束、網代笠、お杖を持ってリュックを担ぎ桂浜を歩く。自分でもおかしかった。でも思わぬ見物ができた。あまり暑かったので高知名物アイスクリンも食べる。アイスクリームとシャーベットの中間ぐらいでおいしかった。

 三十三番、二時五十分着。本に二時間と書いているところを、なんと三時間十五分かかる。でも今日は次で泊まり、気分はとても楽。ここも大変な人で、お納経に長い時間待たされる。でも私はこの時間が休憩と思いゆっくり休む。

 三時四十五分種間寺へ。途中、親切な人に近道を教えてもらい予定より少し早く五時二十分着。少し手前でバイクのおばさんが蜜柑のお接待をして下さる。この頃「お遍路さん、お遍路さん」と声をかけられると、「はい」と抵抗なく返事ができる。
 種間寺では団体さんが本坊に泊まっているので離れに。隣はご夫婦で、ガラス戸でしきりがしてあるので電気をつけるのに気を使う。机がなかったので、今日はお願いしてお借りする。だんだん知恵が出てきました。

 書きながらすぐ眠ってしまいそうになるので、眠気覚ましに由美ちゃんに電話。桂浜の話をすると大笑い。でも今日はそこを間違えただけで、後はいつも道の分からない時は大抵人がいて、親切に教えてもらう。
前に会ったお遍路さんも言っていましたが、徳島は歩き遍路の道が良く整備され標識、道標がたくさんあり間違えにくいのですが、高知はまだ道標が少なく地図の必要を感じます。その分土地の人に親切に教えて頂いていますが。
 明日は清滝から青龍寺へ、青龍寺の前の民宿に泊まる予定です。ここは、連休なので二日前に予約をしました。部屋がないと断られ、どこでも良いからと無理矢理お願いすると「本当にどこでもいいんですか」と言って笑われました。でも私は一日ぐらい、雨露をしのげて、野宿でなければどこでも良いと思っています。  
 五月五日 午前五時三十分
 三十四番 種間寺にて


 五月五日(金)曇り
作品名:空と海の道の上より Ⅲ 作家名:こあみ