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端数報告5

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大阪の福島人


 
カラス神父「悪魔祓いが逆効果になる恐れもあります」
リーガンの母「これ以上何の恐れが?」
カラス神父「できない。悪魔憑きの証拠が必要です」
リーガンの母「証拠?」
カラス神父「未知の言語を話すとか」
リーガンの母「ほかに?」
カラス神父「分かりません。調べないと」
リーガンの母「専門家なのに」
カラス神父「専門家はいない。今やあなたのほうが詳しいかも」
 
画像:エクソシストカラス神父 アフェリエイト:エクソシスト
 
「誰も経験してない」ことについての専門家はいない。たとえばこの人は、
 
画像:中沢健
 
ネッシーとかツチノコとかの〈研究家〉ではあるかもしれぬが〈専門家〉と呼ぶことはできない。そういうものの専門家はいないのだ。コロナが人類が未だ経験したことのない史上最大の〈禍〉であるのなら、その専門家もいるわけがない。
 
なのに「自分は専門家だ」と言う人間は嘘をついてるか、あるいは、
「自分は救世主だ」
との妄想をいだいている、
 
画像:トニーたけざきのガンダム漫画72−73ページ アフェリエイト:トニーたけざきのガンダム漫画
 
こいつとなんら変わることのない人間だ。再三書いてきた通り、〈コロナウイルスの専門家〉と呼ばれる者は二種類しかない。まるでヒトラーとゲッペルスのように、あるいは麻原と上祐が「ハルマゲドンが来るぞ来るぞ」と唱えたように、
「〈波〉が来るのです、〈波〉が!〈波〉が!〈波〉が!」
と叫ぶ狂人か、
「オレが何も知らないことを誰も気づいていないよな」
という目を左右に泳がせながらゴニョゴニョとしゃべる人間か。
 
そのどちらかだ。この夏以降、狂ったように叫ぶ者はますます狂ったようになり、自信なさげに話す者はますます自信なさげになった。
 
「ワクチンを接種したら大丈夫じゃないのですか」
 
との問いにどちらもまともに応えずに、
「そういう問題じゃないんですよ!!!!」
と怒鳴るか、
「そそそそういう問題ではないのですゴニョゴニョ……」
と言うかのどちらかになった。一方はますますギレンのようになり、もう一方はますますこの、
 
画像:鈴木邦芳
 
グリ森事件当時の大阪府警刑事部長・鈴木邦芳のようになってる。鈴木邦芳。『キツネ目』の本にこの人は、
 
画像:キツネ目66−67ページ
アフェリエイト:キツネ目
 
こう書かれている。いわゆる〈キャリア組〉だけど東大や京大卒でなく、それどころか、というあたりは興味深い経歴だが、それはそれとしてグリ森事件の前年に刑事部長になっている? その前は〈警察〉ではなく〈警察庁〉の人間で薬物対策室長? ってことは、この人、事件捜査の経験は何も持ってないんじゃないのか。
 
そして「東から来た男」であり、関西ではよそものじゃないのか。アン・フクシマン・イン・カンサイ。それはエイリアン。レプリカント。関西社会に溶け込めぬ異分子ではなかったのか。
 
そしてキャリア組の中にあっても異分子で、ノンキャリアや準キャリアからも「オレ達とは違うやつ」との眼で見られてしまう存在。
 
だったりしていなかったのか。そんな人間が大阪に来て数ヵ月、マクドナルドを「マック」と言ってまわりから、
 
「刑事部長、あれはですな、大阪じゃ『マクド』ちゅーますのや」
 
かなんか言われる毎日だったところにグリ森事件が起きた。
 
という話だったりしないのか? まるで『踊る大捜査線』で柳葉敏郎演じる室井を思わす経歴だが、テレビが作るドラマと違って捜査指揮の能力はなく、あったとしても支えてくれる和久と青島のような刑事がなければ発揮しようがなかった。ために上の口出しやマスコミの横槍に踊らされて現場が混乱。事件が変な方向にどんどん行ってしまったのは、この男にも原因の一端があった……。
 
ということはないんだろうか。そんな疑問を感じてしまうが、しかしこれまでこんなことを言うやつも、おれの他になかったのかな。
 
「誰も経験してない」ことについての専門家はいない。「事件の専門家」はいても「グリ森事件の専門家」はいない。それまでこの世になかった種類の事件であり、何もわからずに終わっていてそしてその後もないからだ。「刑事事件の専門家」は警察の中にいくらでもいるが、その知識や経験はまったく役に立たなかった。指揮する鈴木邦芳は〈専門家〉と呼べなかった。
 
 
   「あなたは専門家なのに」
 
 
と映画『エクソシスト』で少女リーガンの母親は言うがセリフを聴くと「エキスパート」と言っている。神父、あなたはエキスパートじゃないんですか。そんなものいませんよ。警察官の誰もが捜査の専門家じゃないんです。和英辞書で〈専門家〉を引けば【specialist】【professional】【expert】のみっつが載ってる。普通は専門家と言えば〈スペシャリスト〉か〈プロフェッショナル〉でしょうね。刑事は捜査のプロフェッショナルだろうけど、だからと言って誘拐事件のスペシャリストというわけですらない。
 
〈エキスパート〉はさらにその上の専門を極めた【精通する者】を指す言葉でしょうけど、そんな人間はいません。ましてグリ森は、前例がなくあまりに特異でスペシャリストやプロフェッショナルという程度では到底太刀打ちできないところにある。NHK『未解決事件』の再現ドラマで鈴木邦芳を演じるのは大杉漣だが、百の刑事が大部屋の中で十万枚の万札をカメラで撮ったり薬品を塗ったりしてるところを、
 
   *
 
「よろしく頼むぞ」
 
画像:大杉漣
 
言って歩いてこうやって腕組みするほか何もしてない。エキスパートぶった顔をしてるがしてるだけで、できることや刑事らに言えることなんかなんにもないから腕組みをして、ちゃんとものを考えているフリをしているだけなんじゃないのか。
 
いても邪魔なだけじゃないのかこいつ。って、もちろん、これはあくまで再現ドラマで大杉漣は演技しているだけであり、実際がどうだったのかわからんわけだが、前回に見せた通りこの最初の脅迫で、〈彼ら〉は手紙に、
《金 もらったら 科学的な 調査して 24じかん したら 人質を かえす》
などと書いている。警察はグリコの内部犯行を半ば信じ込んでいる。「5時」と言ったら5時に連絡が来るものと思い込んでもいるらしい。
 
一方で「警察に仲間がいる」はハッタリと考え、「科学的な調査」などといったことは全部脇に押しのけてしまい、人質の命も気にかけていない。
 
重要なのは犯人を捕まえること、身代金を渡さないこと、それだけだ。鈴木邦芳の頭にあるのはそれだけで、具体的なものはともなっていない。専門知識や経験などないからともないようがない。自分に都合のいいことだけ信じ、都合の悪いことは無視して事を進めているわけだ。それでプロの仕事をしてると思い込んで疑ってない。
 
それでは過去に前例のない事態に対処することはできない。犯人がエキスパートならば勝てない。素人のおれから見てもこの時点でまるっきりダメ。
 
 
 
   十億円をほんとに必要としているの
   ならそれをなんに使うというのか。
 
 
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之