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こう見せたように警察とグリコはカネと金塊を用意したが、5時になっても、
 
画像:しかし連絡はなかった
 
しかし連絡はなかったという。ただしその後で連絡があり、『キツネ目』によればそれは、
 
画像:キツネ目76-77ページ二度目の録音部分
 
このようなやり方だったが、NHK『未解決事件』によればそれも、
 
画像:レストラン寿 接触はなかった
 
という。つまり、『キツネ目』で初めてわかるが、レストランの店員が、
「中村さんいらっしゃいますか。お電話でーす」
と言うこともなかったわけだ。
 
要求が本気だとしたら変過ぎる。そして〈彼ら〉はその後に、『キツネ目』によると、
 
画像:キツネ目76-77ページ三度目の録音部分
 
このようなことを勝久氏にしゃべらせテープに録音している。のだが、そこで手錠を外す。このテープは翌日午後に電話で流すが、そのとき既に勝久氏は保護されていたため、前に見せたように、
 
画像:キツネ目80-81ページ末の七行
 
こうなってしまう。やることが周到の極みなのかズサンなのかまるでわからん。
 
ということになりそうだけど、それがミゾグチなんとやらやオダギリかんとやらによれば、
「怨恨と考えれば納得できる」
ということになり、しかし結局、当のミスグリ加藤によって、16年後に、
《事件の始まりだけを見ても、謎ばかりだ。なぜ犯人らは警察に通報しないよう社長夫人に強く口止めしな》
かったのかと書かれ、その11年後、 
「何が事実やったか、何が真相やったか、やり通さな答えがないと言うか」
なんて言っちゃうことになる。怨恨ではまるで説明できないから。
 
そして『キツメ目』の著者はこれを、
《恐怖心を担保に取》り、《マインドコントロール下でカネを払わせる》
計画だと考えれば説明できることにするが、テープの録音だけを見てそんなことを言ってるだけだな。他の都合の悪い部分を全部無視して、勝久氏が30時間逃げずに倉庫に留まっていれば10億プラス金塊をほんとに奪れたと考えているのか。
 
バカらしい。確かにテープ録音とそれを電話で流すやり口などだけ見れば〈彼ら〉は周到極まりないが、しかしこのとき警察に、勝久氏の命を顧(かえり)みる気はまったくなかった。たとえ7歳のM子ちゃんが攫われた場合も同じだろう。
 
   「人質の命は気にかけるな。
   身代金だけは渡してはならん」
 
が日本の警察の誘拐事件捜査マニュアルの第一項。何をおいても守らねばならぬ最最重要項目だ。人質は死んでいい。犯人も最悪逃がしてもいい。しかし身代金だけは、決して渡してはならぬ、と。
 
たぶん、1963年の〈吉展ちゃん事件〉で、
 
画像:刑事一代16-17ページ
画像:刑事一代表紙
 
こんなことがあってから。人質は死んでも警察の失敗にならぬが身代金をまんまと持って行かれてしまうと警察の大大大大大大大大失敗ということになるのだ。まあ、確かにその通りなのだ。対して犯人に逃げられるのは、失敗は失敗だけど小失敗というところ。
 
なので身代金だけは護る考えで配備を行う。〈彼ら〉はそれを知っているので、警察が間に入ると決してカネは取れないと知ってる。
 
だからのちの脅迫では、なんとか警察を間に入れない裏取引をやろうとしている。けれどもこのいちばん最初の勝久氏誘拐だけは違うのだ。
 
 
   〈彼ら〉はこのとき明らかに、十億プラス
   金塊なんて本気で奪ろうと考えていない。
 
 
怨恨その他の線も全部バカげている。いやまあもちろん、それを言うならおれの、
 
 
   画像:グリコの看板を見上げる上川
 
   この看板を世界的に有名にするためのイタズラ
 
 
なんていう方がずっとずっとバカげてるは承知の上だが、しかしあなたは、
 
アフェリエイト:ザ・ウォーク
 
アフェリエイト:世界最速のインディアン
  
これをやる者らに畏敬を覚えないのか。テレビの大食い選手権に喝采を贈ることはないのか。あるいは、百人一首の早取りなどに鎬(しのぎ)を削る者達を讃えて見ることはないのか。
 
    *
 
「〈世界最速のインディアン〉に乗っていたバート・マンローもそう。最新素材のレーシング・スーツじゃなく、ニュージーランドのウールを着て塩湖を走ったのよ!」
 
アフェリエイト:スーパーカブ

おれはあるぞ。これがそれらと同じものだと考えるなら、最初の誘拐の不可解性をすべて無理なく説明できる。そう言うぞ。そして計画が失敗したのは、〈ミスター・グリコ 加藤譲〉が盗聴により脅迫状の内容を知ったために起きたのだ、と。
 
おれはそう考えるぞ。それが最大の要因で、そこから間違いが始まったのだ。普通に読まれりゃ、人は皆、
「この脅迫状、なんか変だよ。どこもかしこも」
と言うはずだった。言ってくれてよかったのだ。グリコの看板を世界的に有名にするためのイタズラだから。それが間違いに次ぐ間違いで、最後は、
 
画像:滋賀県警本部長自殺
 
こうなってしまった。
 
そんなつもりはなかったのに。そんなつもりはなかったのに。なんでや、という、これはそういう物語なのだ。そう考えればすべての謎をきれいに解くことができる。
 
とさえ思うのだけど、しかしここは見方を変えて、おれがモノホンの凶悪犯で十億プラス金塊を本気で奪る気でいる、ほとんどこんな、
 
画像:ジョーカー アフェリエイト:ジョーカー
 
やつだったとして、どうするかを考えてみようか。171号線の電話で指定した場所に金子取締役と刑事が乗ったクルマが行くと、道に缶なんか置いてない。金子がそこにない缶を探しているところにおれがクルマに寄って、運転席の刑事に拳銃を突きつける。
 
「手紙には『運転手に刑事を使ったらすぐバレる』と書いといたろう。わからなかったのか」
 
「わ、わたしは、刑事なんかじゃありません」
 
「嘘をつくなよ」
 
BANG!と刑事の腿を撃ち抜く。
 
「ぎゃああ――っ!」
 
「死にゃしねえよ。おい、そこの」
 
と、この場所に先回りしていた別の刑事を呼んで、
 
「カネはちゃんと持ってきたろうな」
 
「は、はい。荷台に積んであります」と青くなった刑事。
 
「よし。だったらそれを開けて、百万だけこっちに寄越せ。わかるな。札束をひとつだけだ」
 
「え? 全部じゃないんですか」
 
「いや、束をひとつだけだ。書いといたろう。『科学的な調査をして何もなければ人質は返す』と。何か出たら勝久には死んでもらう」
 
画像:札に薬品を塗る作業 でもこうだから、
 
「ちょ、ちょっと待ってください」
 
「待たないよ」
 
と言って去っていく。その場を刑事が30人で囲んでいてもおれに何もできないだろう。勝久氏には当然死んで、この川に浮かんでもらうことになる。
 
画像:水防倉庫の川
 
「札に薬が塗られていたから処刑した」
との紙を添えてね。で、その後だ。次におれは、
 
画像:仕方修いやそんなのないよ
 
こいつを攫う。こいつの声をテープに録って警察とマスコミ各社に送るのだ。大阪府警本部長・四方修が、
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之