小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

端数報告5

INDEX|6ページ/61ページ|

次のページ前のページ
 

一方その頃、15キロほど離れた大阪の府警本部ビル、読売のボックスでは上川演じる加藤と宅麻伸演じる記者Cがこのように電話に向かい、
 
画像:ボックス内部3
 
記者C「高槻の電話ボックスで、グリコへの脅迫状が見つかったらしいで。ああ、内容はいま確認してる」
 
加藤「そこ、内容もお願いしますよ」
 
記者C「せやから確認中やて。もうちょっと整理部おさえといてや」
 
加藤「はい」
 
記者C「せやからもうちょっとやて。あー、スペースはま……(加藤に手で合図され)ちょっと待てや」
 
加藤「ありがとうございます(電話を切る)」
 
記者D「わかった?」
 
加藤「脅迫状はタイプ印刷。犯人は十億円と金塊を要求!」
 
記者A「十億!?」
 
記者D「金塊!?」
 
記者C「身代金目的の誘拐事件や。うん。すぐ記事を送る」
 
加藤「よし。大阪に来たか」
 
NHK『未解決事件』番組タイトル
 
という具合で、彼らは小部屋に居ながらにして電話でネタを得たように描かれる。だが一体、加藤は誰と話しているのだろうか。
 
それがわかる描写はない。宅麻伸演じる記者Cが読売新聞の東京本社か大阪支部と話しているのはわかる。だが加藤の相手はわからぬ。このシーンは明らかに嘘で、ほんとは『キツネ目』にある通り、加藤達はこの小部屋で警察無線を盗聴していた。それによって内容を知った。
 
としか考えられないだろう。だから翌朝、ライバル紙と自分らの記事を並べて見比べ、
 
   *
 
「よーし、犯人の具体的な要求、ウチがいちばん詳しいで」
 
画像:翌朝の各紙 それを見る加藤達
 
ということになる。どっちにしても彼らはその脅迫状を実際に見たわけではない。
 
締め切りまでのわずかな時間、朝刊に間に合わせられるかどうかという切羽詰まった状況の中で、人が読む声を聴いて知ったのだ。十億プラス金塊という要求もさることながら、
 
 
   「警察にも会社にも仲間がいる?
   確かにそう書いてあるのか!?」
 
 
聴いてそう叫んでいる。ために普通は「そんなのはハッタリだろう」と思うところでそう思うことがまったくなかった。
 
そこから間違いが始まった。のではないかとおれは思うというところで前回は終わったんだね。脅迫状は普通に読んだら間抜けな印象を持ちそうなもので、しかもそれが意図的に思える。おれの眼で見て、という話だが、『キツネ目』から一部見せよう。
 
画像:キツネ目72-73ページ
 
こうだが、そもそも最初の2行だ。《あづかった》に《よおい》って、日本語として間違っている。「預かった」や「あずかった」、「用意」でなくてなぜこうなのか。
 
もちろん、これが意図的で、不気味な感じを出そうとしてこうしているのは明らかだが、なんでそもそも「不気味な感じ」なんてものを出さなくてはならんのか。
 
そしてやっぱり、どこか間の抜けた印象も受ける。この2行でもう既にだ。これがあるから『キツネ目』の著者も、
《〈けいさつに しらせたら 人質を かならず 殺す〉という定番の脅し文句にしても間の抜けた印象を受ける》
と言うことになるのでないか。〈警察〉を《けいさつ》と書いてるところがやっぱり変で、全体に本気で書いたものという感じがあまりしないのである。
 
画像:B級ニュース大行進表紙
 
こんな調子の間抜けな人が書いたものという気がする。十億円を要求したはいいけれど、持てずに札束16個くらい掴んで逃げてき、警察が、アッケにとられて見送りでもしちまうような。
 
そしてそれがそもそも〈彼ら〉の狙いだった、というのがおれの読みなのだけど、盗聴によって内容を知った者らに一字一句、本気に取られて報道された。「怨恨か」ということにされ、『警察とグリコの内部に仲間がいる』も「否定できない」ということにされる。
 
そして「否定できない」と言った次の瞬間に、「間違いなく仲間がいる」ということになってしまう。あいだに『電電公社にも』があるのはどこかに押しやられる。
 
怨恨であり警察とグリコの内部に仲間がいることにしたい人間にとって、都合の悪い部分だからだ。トレンチコートはメッセージだ。江崎利一は生前何か途轍もなく悪いことをしてるのだ。今の社長はそれを知ってて隠しているに違いない!
 
そういう話が好きな人間達により、そういう話にされてしまった。その日、『2時のワイドショー』や『3時のあなた』といった番組のネタになる頃すでに、そんな話が完全に出来上がってしまっていた。
 
のではないのか。しかしその頃警察では、用意された十億円を刑事達が、
 
画像:札を写真に撮る刑事達 薬品を塗られる札
 
このようにしてカメラで撮ったり、何やら薬品を塗ったりしていたのだけれど、実はウィキに、
《犯人グループが要求した現金10億円は高さ9.5メートルで重量は130kg、これに加えて金塊100kgでは運搬が困難であり、合同捜査本部ではどこまで犯人グループが本気で要求していたのかいぶかる声もあった》
こうあるように疑問を持つ者もいたらしい。
 
そりゃそうだろう。コロナにしても、夏に東京で感染者が「今日は4515人」「今日は5773人」とやった時、ほんとはあの後、
「今日は七千。八千。九千。ああ、とうとう一万に!」
とやる気でいたんだけれど、しかし現場で実際に検査やってる者らの間で、
 
「おかしいなあ。ウチじゃ昨日に500人検査して、妖精は30人くらいだったよな? 別に状況は変わってないよな。それがどうしてこんな数字になるんだろう。よそで爆発してるんだろうか」
 
などと言う者がゾロゾロ出ちゃって、「まずい」というので取り止めにした。で、その後でいろいろとごまかしにかかってるんだけど、やればやるだけ傷口を広げてる。
 
というのが今の本当の状況だったりするんじゃないかね。ニュースが言う日々の感染者の上下を見てるとおれはそんな気がするんだが。
 
だからそろそろ〈ベルリンの壁〉が、音を立ててガラガラと崩れる日も近い。と、思いたいんだがどうなんだか。
 
まあとにかくグリ森の話だ。実際に札をカメラで撮ったり薬品を塗ったりしていた現場の刑事らは、作業をしながらいぶかってもいた。こんなものを用意させて、運ぶことを考えてるのか。クルマ一台あればそりゃまあ、持って行けもするだろうが、と。嵩と重さが凄いというだけではなかろう。
 
「この脅迫状、なんか変だぞ。電話ボックスから掛けてきてそこにこいつを置いているのに、『逆探知してもすぐわかる』もないもんじゃねえか? ってゆーか、全部、何もかもが……」
 
デタラメ極まりない、などと現場の刑事らは言い合っていたのじゃないか。〈彼ら〉の最初の脅迫状は、何から何までおれが読んでおれが刑事ならそう言いそうに思えるものだ。それでいて、実は頭のいいやつが書いている気も感じられる……。
 
ならば本当の狙いは別だ。この手紙は書いてあることよりも、書いてないことの方が重要じゃないのか。
 
と、おれが刑事ならそう言いそうに思えるものだ。そして実際、さっき、
 
画像:午後5時・警察とグリコは犯人の指示通り10億円を用意した
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之