端数報告5
と書いてあるからねえ。エンデンブシはここんところをちゃんと読んでないのとちゃうか。
大野刑事は1月になって〈F〉の似顔絵を初めて見、
「これだ! あのときの男の顔だ!」
と言ったのだけどその後に記憶が27年間のどこかでよじれた。誰にでも普通にあること。それだけの話で、レストランからトイレ、そしてベンチへと移動したのは間違いなく〈F〉だろう。そして大野刑事が去った後で電話ボックスへ。
そして阿久津=エンデンブシの考えと違い、おれは〈F〉はそこで紙を貼るフリをしていただけだと思う。大野刑事に見せるためにだ。大野刑事がレストランで自分を見咎め後をついてくるのを確かめ、
「刑事に間違いない」
と思った。ベンチに座ってゴソゴソやって見せたのだが、すべてはこの、
画像:白い布の地点白丸つき
白い布のところへ行く警察の数を減らすためだ。『罪の声』の映画版は小栗旬のナレーションで、
「犯人は、高速道路からの現金投下を狙っていると思われた」
と言ったが、おれの考えは違う。
おそらく上の画におれが白い丸を描いたあたりに、一味のうちふたりくらいが潜む手はずだったのだ。滋賀県警のパトカーのために失敗することになるが……。
警察は要求のカネを運ぶクルマを何台もで囲む作戦でいたのだが、高速道路で止まるわけにいかず、白い布の地点で止まったのは現金のクルマだけ。そこにあるという空き缶はなく、NHKの再現ドラマでは、
*
運搬人「なんぼ見ても、白い布のところに空き缶はありません!」
鈴木邦芳「車線上もよく探せ!」
運搬人「クルマがすごいスピードで近づけません!」
鈴木「どこかに必ずある。徹底的に検索しろ! ××××××××(なんと言ってるか聞き取れない)いいな!」
画像:クルマがすごいスピードで近づけません
こう描かれる。実はその30分前、下の道路で滋賀県警のパトカーが、不審なライトバンを見つけて近づき、逃げられるという出来事が起きていたのであった……。
*
水島「府警と県警がガッチリ手ぇ組んどったら犯人逮捕できたかもしれへんのや!」
画像:松重豊演じる水島
って、まあそうでもあるが、しかしどんなもんかねえ。むしろパトカーが近づかなけりゃ、現金奪取が成功していた見込みもある、なんてことを、滋賀県警の人間なんかは結構言っているそうだが、おれもそれに賛成かな。
「絶対に」とまでは言わないけれど、成功していた見込みは結構高いと思う。おれが考えるところでは、
画像:当時の実際の写真の柵
空き缶なんか最初からなく、〈彼ら〉のうちのおそらく2名がこの柵の端の向こうに隠れていた。クルマの流れが途切れたところで刑事が車線の右に渡ってそこで空き缶を探し出したら、ガードレールを乗り越えてバンの中の現金をいただき、下のライトバンまで走る。という計画だったものが滋賀県警のパトカーのために失敗した。
というのがおれの推論である。上のふたりは逃げたライトバンに置き去りにされたわけなのだが、近くで自転車を見つけて別々に逃げている。あるいは、もしもの場合に備えて2台の自転車を用意してあったのかもしれない。
『「最終報告」真犯人』によれば、ライトバンが逃げた30分ほど後、自転車に乗った不審なふたりが数キロ離れた場所で別個に目撃されてるそうで、スキャンして見せると、
画像:真犯人168-169ぺージふたりの自転車乗り
アフェリエイト:森下香枝真犯人
こうだが、このふたりがそれだ。3.18の始まりの日に江崎勝久氏宅に押し入ったふたりでもあり、一味のリーダーとサブリーダーの見込みが高いように思う。
もしくは、逃げたライトバンのドライバーがリーダーかサブリーダー。〈F〉の役目はこの3人のために自分が警察の注意を引いて、白い布のポイントまで行く要員を減らし、あるいは遅らせること。四方修はNHKの取材に応えて、
画像:四方修キツネ目を追っかけて行ってそっちが手薄になって
と言ったがまさにそれを目的としていた。自分を追わせて白い布の方面を手薄にさせようとしていたのだ。電話ボックスにいたのもこないだ書いたように、自分をわざと見つけさせるためだし、ベンチの下に手を突っ込んでガサゴソやっていたというのも大野刑事に見せるため。
だからもしも大阪府警と滋賀県警がガッチリ手ぇ組んどったら、〈F〉が逃げ去った後で大野刑事が松田刑事に、
「あいつはあのベンチに座って何かやってた!」
「なんだと? 見てみよう。別になんにもないようだけど」
「いや、何か貼ってたんだよ。おれは見たんだ」
「じゃあ、どっかに落ちてんじゃないのか。探そう」
ということになってしまった見込みが高い。
それが〈F〉の役だったのだ。よって、これに関しては四方が言うのが正しく、対して、
画像:四方対NHK
と言うNHK(黄色)は間違っている。まあマスコミが四方以下なのは当然というものでもあろう。
次の草津パーキングエリアにも似たようなことをしていた者が目撃されながら貼られた紙などやはり見つからなかったと言うが、〈F〉と同じ役であったとおれは思う。メモなどどこにも貼っておらず、貼ったように見せていただけ。
そしてまた松田刑事の、
*
グリコ・森永事件に関わった捜査員の集まりが、今も大阪で定期的に行われている。
松田氏が顔を出すと、今も「なぜあの時、職務質問をしなかったのか」と聞かれると言う。
「ホンマ、私はこの事件のA級戦犯ですわ」と笑って返すと言う。
画像:松田刑事 アフェリエイト:捜査員300人の証言
というやつだが、おれはもしこの人が上の命令に背いて〈F〉にバンをかけても無駄だったのじゃないかと思う。
6.28の〈天国と地獄作戦〉の時とは状況がまったく違うからだ。あれはバンかけすべきだったが、11月のこの場所は違う。
まずそもそもここでの〈F〉は、大胆極まる行動を取っていたわけではない。電話ボックスにいただけだ。
京都駅では仲間の刑事が何人もいて、〈F〉を囲むこともできたが、ここはそうでない。だというのに警察手帳を出して、
「警察の者です。あなた、今、電話ボックスにいましたね? 何をしていたんですか」
なんて言っても、
「はん? 何を言ってんの。電話ボックスにいちゃいけないのかよ」
「あ。いや、えーと……身分を証明する物を何かお持ちですか?」
「なんで見せなきゃいけないんだ。あんた、ほんとに警察の人? 刑事のフリしておれの財布からカネを抜こうってんじゃねえだろうな」
「いえ、わたしはほんとに警察官です」
「わかるもんか。もし本当に警察としても横暴すぎる。こんなことが許されんのかよ。ええ、おい!」
というようなことになったとしても知りませんよ、松田刑事さん。おれが〈F〉ならたぶんそう言いますけどね。
そしておれの考えでは、〈F〉はおれなんかよりはるかにそういうことに慣れているし長けている。このあいだ浅田次郎の本からスキャンして見せたような、
《豊富な経験、十分な法知識、信念と気力、そして何よりも体力》