端数報告5
もちろん、株価操作説とまったく合わない人間だからに違いあるまい。もう一度訊く。この本を買って読んだ人、映画をお金を払って見た人。これで納得してるんですか。
これで納得できるんですか、とおれは言いたいのである。どうなんですか。いいんですか。あなたが良けりゃおれは別にいいんですがね、と。
ついでに言うがタニってやつも、「逆探知に詳しい」と言うが、実際のグリ森事件で〈彼ら〉はずっと公衆電話を使っているし、警察や企業の方から〈彼ら〉に電話できることは一度もなかったのだから逆探知に詳しい者が一味にいる必要はない。無線が使える人間がいたのは確かだが電話と関係ないだろう。最初の手紙の、
《電電公社にも ナカマがいる》
は明らかにハッタリで、真に受けるやつがいるとはおれにはとても信じられない。
ところだったが、エンデンブシもこの映画を作ってるやつらもみんな真に受けたみたいだね。ふうん。さらにまた映画は、最初の勝久氏、いやギンガ社長・菊池政義氏誘拐から2時間も経ってない頃らしきものとして、
画像:銃をみがくキツネ目
このような画を見せる。銃を磨いているのがこの映画の〈キツネ目〉だ。原作と違って江崎、いや、菊池宅に押し入ったふたりのうち片方で、しかも【ライフルを持った方】ということになっているのがわかる。
おまけになんだか何発かぶっぱなしでもした後みたいな感じで、【銃は確かに本物だったと判明している】と言わんばかりだ。この映画で初めて事件を知る人は、たぶんそう思ってしまうのではなかろうか。
そうだろう。実際の〈F〉は長身で、〈彼ら〉が発砲したことはないと知らねばこの画は嘘と思いようがない。「なるほど気持ち悪いやつだ」と考え納得してしまう。
のではないか。本当の目撃談の〈F〉は、
画像:目撃談の〈F〉
6.28東海道本線の〈F〉 11.14大津サービスエリアの〈F〉
こうで、【精悍な印象】とされる。【不気味】と言われるのは目が吊り目だからではなくて、前に書いたように6.28に京都駅のホームで現金持参人のまわりをグルグル回り動いたからだが、映画も原作小説もそれを描いてないのだから、知らなきゃそんなの知りようがない。
わけだね。そして11.14の大津サービスエリア。琵琶湖を臨むこの場所で、〈F〉は果たして何をしてたと言うのだろうか。
画像:キツネ目208-209ページより名神高速道路の地図 アフェリエイト:キツネ目
大津サービスエリア。そこは琵琶湖を眺める展望地でもある。というのが既にカッコよく、〈彼ら〉を悪く言いたい者が触れずに済まそうとするところらしい。カッコいい事件はカッコよく描かなければカッコよくなくなっちゃうじゃん。そうでしょ。ねえ。日本の犯罪史上最もカッコいい事件をカッコよく描かない。そういうことが、今まで許されてきちまってたわけだ。こんなことが許されていていいのでしょうか。
画像:スーパーカブの琵琶湖 アフェリエイト:スーパーカブ
せやろ。これや。琵琶湖ちゅーのはこないなふうに見せるもんや。それをなんや、
画像:罪の声とNHK未解決事件の琵琶湖
こいつらは。水が写っとるだけやないか。これが琵琶湖ちゅーことが、見るもんにわかる思うとるんか。味噌汁で顔を洗うて出直して来いや。
カッコええ漢(おとこ)の〈F〉が夜の琵琶湖を
背にしておったんならばそれを画にして見せんかい。
という、そーゆー話でしょうが。NHK『未解決事件』では、滋賀県警が大阪府警に黙って密かに何人かの刑事を名神高速の各所に送っていた話が番組と本で述べられている。『罪の声』の原作本にもそれに触れた箇所があるのだが、
画像:罪の声220-221ページ未解決事件の本
こうだ。NHKの番組を見ると、刑事の名前は大野と言うが、
*
ナレーション「大野さんは、全体を見渡すため、2階のレストランに向かった。そこで不審な動きをする男を目撃。似顔絵で見たキツネ目の男だったという。大阪府警の松田さんが(電話ボックスにいるのを)目撃する10分前のことだった」
画像:レストランのF
だって。だからそれはだな、夜の琵琶湖を背にして〈F〉がおったちゅーことやんけ。なんでそれを画にして見せん。ボケ。カス。スカ。タコ。アホンダラ。カッコええ〈F〉の画を作って見せろや、ボケナスが。それがプロの根性つーもんやないんか。
汚らしいおっさんなんか見とうないわ。せやろ。怠慢にもほどがある。反省会が必要だ――そうは思いませんか皆さん。ねえ、思いませんか。思うでしょう。おれは思いますよ。ふざけるな。そう言いますよ。日本の犯罪史上最もカッコいい男が夜の琵琶湖を背にしていたなんて、そんな、そんな……。
見たい。おれはその画を見たいと思いますよ。汚らしいおっさん、いや、大野刑事が後をつけると〈F〉はトイレに入ったと思うとすぐに出てきて屋外のベンチのところまで行きそこで座り、下に手をやり何かを貼るようにしていたという。のだが、
画像:大野刑事の尾行
隠密行動だったため、大野刑事はその場を去るしかなかった。その後に〈F〉は電話ボックスに移動。そこに大阪府警の刑事が到着。〈F〉を見つけて前に見せたように、
画像:刑事とスレ違うF
このようなことになって姿を消す。
わけだが『罪の声』原作の阿久津は、ひとつおかしなことに気づく。NHKの番組と本で、大野刑事は、
*
「(略)目つきとかはもうまさに、似顔絵のとおりだった」
画像:似顔絵の通りだった アフェリエイト:捜査員300人の証言
と言うのだが、しかしそんなはずがないのだ。よく知られるこの似顔絵が公開されたのは翌年の1月。大阪府警はそれまであの絵を部外秘にして、他の県警はおろか、大阪府警の中でさえ限られた者にしか見せておらず、絵が存在することすら知られていなかった。11月14日に大野刑事が〈F〉の似顔絵を見ているはずがない!
おお、まったくその通りだ。でもって阿久津の考えは、
画像:罪の声222-223ページ
アフェリエイト:罪の声
こう続く。
《では、この刑事が嘘をついているのか。(略)それは考えにくい、と阿久津は思った。》
とあるが、うん、おれも、嘘をついてるわけでは決してないと思う。ただの記憶違いだろう。なんたってこの時点で27年も前の話でもあるしな。嘘と記憶錯誤は違う。ただそれだけの話なのだとおれは思うが、阿久津はそこからなんだか妙な推理を始める。
おれはあえて塗り潰してここで見せないことにしたが、興味のある方は図書館ででも借りて読むこと。お金を出して買うのはお金の無駄なのでおれは勧めません。
大野刑事は〈鳥居〉というキャラクターの考え通り、
《不審者やから尾行した》
のだろうが、だからと言って、
《ベンチの男が別人の可能性がある》
というのはないと思う。NHKの本には別のページに、
画像:捜査員300人の証言240-241あの絵は似ていたあのまんまやった
アフェリエイト:捜査員300人の証言