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端数報告5

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メッセージは明確に


 
画像:署名記事部分アップ《事件の始まりだけを見ても、謎ばかりだ。なぜ犯人らは警察に通報しないよう社長夫人に強く口止めしな》
 
かったのか、と、〈ミスター・グリコ 加藤譲〉はグリ森事件時効成立翌日の署名記事に書いてるという。てわけで前回の予告通り、まだ最初の江崎勝久氏誘拐の話だ。『キツネ目』の本にその件は、次のように書かれている。線で囲った部分に注意して読むこと。
 
画像:キツネ目10-11ページ
アフェリエイト:キツネ目
 
わかりますか。勝久氏の母親と、妻と長女、そして勝久氏当人では拘束の仕方が違っている。氏の母親はロープで両手両足を縛られたのに対して妻子はガムテープを巻かれただけ。だからすぐトイレから出られて警察に通報できた。
 
そして勝久氏は手錠だが、これが48時間後に外されたおかげで逃げられたのは皆さん了解ですね。手錠のままでは自力脱出は到底不能だったはず。これに反論する者はまさかあるまいと思いますが。
 
が、しかしだ。おれは最初から〈彼ら〉はその気だったと見るが、〈事件に詳しい者達〉の間であまり受け入れられてないらしい。特に〈怨恨・内部犯行説〉を強硬に唱える者の間では。前に帝銀事件の話で見せた溝呂木大祐・著『未解決事件の戦後史』って本をまた図書館で借りてみると、最初の勝久氏誘拐についてやっぱり、
 
画像:未解決事件の戦後史206-207ページ
画像:未解決事件の戦後史表紙
 
こんなこと書いている。この見方が〈事件に詳しい者達〉の主流なのは疑いない。
 
が、さておきここで何より重視すべきはミスグリ加藤の言う通り、
《なぜ犯人らは警察に通報しないよう社長夫人に強く口止めしな》
かったのかだ。これは加藤の言い方だがおれはおれの言い方をしよう、「なぜ妻子にはガムテープだったのか」と。
 
あるいは、
 
 
   「なぜ人数分の手錠を用意しなかったのか」
 
 
と。手錠1個買えるならなぜ6個買わんのだ。「十億プラス金塊」がもし本気なら買ってよかろう。そのくらいの出費がなんだという話じゃないか。なんでケチってガムテープなんだ。
 
加藤の言葉をおれの言い方ですればそうなる。今では〈結束バンド〉という安くて便利なものがある。てゆーかこの年製作の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の〈デロリアン〉に既に使われていたりもするが、まだ当時はこれを人間の拘束に使う不届きなやつはなかったと思う。だから〈彼ら〉は勝久氏の母親の両手両足をロープで縛った。
 
それはわかる。〈彼ら〉はその何日か前から庭に潜むなどして家族のようすを観察していた。それによって勝久氏の母親が合い鍵を使って出入りしていると知ったがゆえに、まず隣に押し入った。勝久氏を連れ出さぬうち警察に通報されては困るから両手両足を縛ったわけだ。
 
それはわかるが、対して妻子はガムテープ。これも勝久氏を連れ出しさえすれば後はすぐ警察に通報されても構わなかったのだとすればわかるし実際そうとしか思えない。そうでなければ人数分の手錠を用意しなかった、あるいは全員を厳重に縛らなかった理由がわからん。わからんが、だがそうなるとミスグリ加藤の言うように、
《なぜ犯人らは警察に通報しないよう社長夫人に強く口止めしな》
かったのか、という話になってしまう。
 
おわかりだろうが、「手錠を掛ける・あるいはロープで縛ること」がすなわち「強く口止めすること」だ。脅迫自体はどうせ前回見せたように、勝久氏を水防倉庫に閉じ込めた後で、グリコの取締役に電話し「○○の電話ボックスに行け」と指示する。そう勝久氏にしゃべらせたのをテープに録って声を受話器の送話口に流す、というやり方で。取締役がその電話ボックスに行くとそこに脅迫状が置いてある、という周到さ。
 
だったら読んだ取締役が勝久氏宅に駆け付けて、縛られ、あるいは手錠を掛けられた家族を見つけるという方が、より効果的じゃなかろうか。「十億プラス金塊」がもし本気だったとしたら。
 
あるいは、『キツネ目』の著者が言うように、これが、
《より安全にグリコからカネを取るには、人質ではなく、江崎家の人々の恐怖心を担保に取るのがいい。それには江崎社長の切羽詰まった声を聞かせ、カネを払わなければ一生付きまとうと脅し、江崎家の人々を心理的に追い込んでいく。暴力は使うとしても最小限にとどめ、精神的敗北をもたらすことで、マインドコントロール下でカネを払わせる。恐喝の典型的手口を使っていたわけだ。江崎社長の拉致は、そのためのトラウマ作りであった》
とかいうのなら。家族全員に手錠を掛けて、脅迫状と鍵をクリップでこのように、
 
画像:クリップ留めの鍵
 
留めて一緒に電話ボックスに置いておく。従わなければどうなるかわからない、という恐怖を担保にカネを奪(と)ろうというなら、そのくらいやってよさそうなものだ。
 
って言うか、そのくらいやんなきゃダメだろ。しかし〈彼ら〉の行動は、周到なようで間が抜けている。「妻子はガムテープ」というのがそもそもおれの眼で見ておかしいのだが、ウィキにはさらにこのときに、
《社長の母や社長夫人が犯人に対して「お金なら出します」と言ったにもかかわらず「金はいらん」と犯人が答えた》
とあるというのは再三ここに書いてきました。
 
ミスグリ加藤も『キツネ目』の著者もそれを知らないはずがないが、「事件の始まりだけを見ても、謎ばかりだ」なんて言うだけで追及しない。彼らの唱える説にとって都合が悪いからだろう。ミゾロギなんとかも見せた通りだ。長女の名前を知っていて、勝久氏を「勝久」と呼ぶから怨恨で内部の事情に精通。
 
「もしくは、そう見せかけたかったのだろう」と言う。長女の名を知っていて、勝久氏を「勝久」と呼んだら内部の事情に精通していると見せかけたかったことになるの? おれにはその感覚が、まったく理解できないんだが。
 
そして極めつけがコート! やっぱりいるんだ、
「“わかってるな”というメッセージです」
と、たぶんこんなふうに、
 
画像:トニーたけざきのガンダム漫画72−73ページ
アフェリエイト:トニーたけざきのガンダム漫画
 
力説しちゃってる人が! で、そいつを真に受けちゃうやつがいる! まあこのミゾロギなんとやらは間違いなくそうだろうけど、そのオダギリさんの説では、勝久氏はやっぱりほんとはそのコートをまとった死体として発見される手はずだったことになってんだろうな。手錠を外してロープで縛り直したのは〈彼ら〉のミス。「30時間は」と言えばほんとに30時間じっとしてるに違いないと考えていたことになっている。
 
よって勝久氏に48プラス31時間目はなく、3月22日の朝に処刑されることになっていた、と。江崎勝久はわかってるのだ、トレンチコートの意味を! 10億の現金! 100キロの金塊! ずっと、ずっと、隠匿してたのだろう、利一が!
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之