小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

端数報告5

INDEX|3ページ/61ページ|

次のページ前のページ
 

と読んでいて「電電公社にも」は省略し、次の「逆探知」は読まない。番組をただ見る者は間にでんでん虫がいるのに気づかないか、気づいても、次のカットに移った瞬間もう忘れているだろう。
 
これは番組をどうにかして見て確認してくれ、としか言えないが、そのように作られている。作っている人間が、
 
「『電電公社にも』を読んだら視聴者に、『まるで「秘密のデカちゃん」の脅迫状みたいじゃないか』と思われてしまう。それではいけない! これは怨恨に違いないのだから警察とグリコの会社に仲間がいるのは確かというのをちゃんとわかるようにしなければ」
 
と考えてでんでん虫をつまんで捨てたのが明白だ。〈怨恨・内部犯行説〉を唱える者らにとって、「電電公社にも」の6文字はそれくらいにまずい。
 
これがあるだけで『秘密のデカちゃん』の脅迫状になってしまう。それくらいにまずいのだ。だからこの6文字は省いて、なかったことにする。
 
そのうえで、
 
「『警察にも会社にも仲間がいる』と書いてある! 警察とグリコの会社に仲間がいるんだ。そうでなければこんなこと書くわけがない。怨恨だ! 江崎利一は生前何か途轍もなく悪いことをしてるってことだ。十億プラス100キロの金はそれで得たものであり、犯人はそれを知ってて要求している。真の目的はグリコの旧悪を白日にさらすことなのに違いない!」
 
誰も彼もがそう言うようになったのだった。あるいは、
《恐怖心を担保に取》り、《マインドコントロール下でカネを払わせる》
計画だった、なんていう説を唱える『キツネ目』の著者にとってもやはり都合が悪いので、事件を見る大きなポイントであるはずのここにただのひとことも触れない。
 
なぜ「ナカマがいる」などと書いたのか、その理由を探ろうとしない。しかしおれの考えは違う。
 
〈彼ら〉はほんとは、
 
「なんだこれ。まるで『秘密のデカちゃん』の脅迫状みたいじゃないか!」
 
と人々に言わせたかった。動機は、
「世間をアッと言わせるようなデッカイことをやってみたい」
で、目的は、
「グリコのネオン看板を世界的に有名にすること」
だったからだ。脅迫文はだから間抜けな印象をわざと与えるように書かれていたのであり、これを本気にする者がいると〈彼ら〉は思ってなかった。
 
わしらの人生暗かった。悔しさばかり多かった。だが明日は天下取ったる。夢をひらいて見せてやる。ザマア見さらせ。ザマア見さらせ。世間にそう叫んだるんや――それを動機で目的とする犯罪だから、脅迫状はそれでいい。本気に取られてしまったらかえって困るものだから、読む人間が本気に取らないように書いてる。
 
のじゃねえのか、こんなもん――再三書いてきたようにおれは事件に詳しくない。当時15、16歳でニュースは見てたが何が何だかサッパリわからず、今になって『キツネ目』で初めて最初の脅迫状の全文を読んだ。わけだが、読んでの考えがそれだ。芝居がかっているがすべてが間の抜けた文の連なりで、こんなものを本気にして読む人間の気が知れない。
 
としか言いようのないものである。なぜこんなのが真に受けられてしまったのか。
 
   画像:加藤譲ちょっとでも肉付けしたいという思いで
 
   こいつが真に受けたからじゃないのか。
 
それが今に全文を読んだおれの考えである。前にも書いたがNHK『未解決事件』の再現ドラマには、事件の翌日、上川演じるミスグリ加藤と仲間達がライバル紙の朝刊を並べて、
 
   *
 
「よーし、犯人の具体的な要求、ウチがいちばん詳しいで」
 
画像:翌朝の各紙 それを見る加藤達
 
と笑い合うシーンがある。
 
『キツネ目』にはどうして彼らが犯人の要求を具体的に詳しく知れたかわかる一文があるのだが、スキャンして見せると、
 
画像:キツネ目076-077
 
こう。ウィキには、
《翌3月19日1時ごろ、大阪府高槻市の江崎グリコ取締役宅に犯人の男から指定の場所に来るよう電話がある。取締役が指定場所に向かうと、社長の身代金として現金10億円と金塊100kgを要求する脅迫状があった。》
とあるが、これに同行した警官が無線で読み上げた文章を加藤達は盗聴してたわけなのだ。
 
画像:3月19日午後1字15分 脅迫状が置かれていた電話ボックス
 
それによって内容を知った。加藤達は脅迫状の現物を見たわけでなく、盗聴で得た音声を頼りに記事をこしらえていたのだ。
 
普通に読めば「なんだよこれ」と思いそうな文章をだから変に感じなかった。雑音混じりのひずんだ音を必死になって聴き取りながら、
 
   「『警察にも会社にも仲間がいる』?
    おい、確かにそう言ったよな?」
 
と叫んだ。だから、本来わざと間抜けな印象を与えるように書かれている『西部警察』で『秘密のデカちゃん』そのまんまな脅迫から間抜けな印象を受けなかった。すべてをマジに受け取って、締め切りまでのわずかな時間に要求を「具体的」に「詳し」く書いた。そうは言うけどたぶんこのとき、でんでん虫は既につまんで捨てられている。テンパッて書いた記事だから、記事はテンパッたものになってる。
 
そこから間違いが始まった。のではないかな、と思うわけだが、後は次のたのしみに残して、今日のところはここまでにしましょう。まだまだ最初の誘拐の話が続くぞ!
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之