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「だからそれにこだわるなと言ってるんだ。古代を〈七四式〉に乗せればガミラスを墜とせるなんて誰にわかるんだよ。結末さえ意外なら辻褄はどうでもいいとするようなテレビドラマじゃあるまいし。陰謀があったとは思えないな。あんなことは仕組んで仕組めるようなものじゃない」
 
画像:セントエルモの灯表紙
https://2.novelist.jp/68292.html
 
と書いてる部分がある。言われた相手はおれがキャラを作り変えた古代進にそれができると信じないのでこの言葉を受け入れない、というものだが、わかるだろう。これと同じだ。世の中には狙ってできることとできないことがある。ヒューマン・ファクターは読めないので、途中の展開を見ることなしに結末だけ見て、
「ここにこういう仕掛けがあったに違いない」
「こうすればAはこう動くとBは読んでたに違いない」
という考えで推理してはならない。それが狙ってできることかをちゃんと考えなければならない。
 
 
   不測の事態で話の流れが変わったところはなかったのか。
 
 
というのをちゃんと見なければならない。そしてグリ森事件というのは、そんなターニングポイントだらけなのがわからねばならない。
 
というのがおれの考えである。この事件で株価操作説を唱える者は、それがわからぬ人間だ。株の知識は持っていても人を見る眼のない者達が株の知識だけで見て、
 
画像:罪の声マンガ版2巻空売りですよ
アフェリエイト:罪の声2
 
このマンガのおっさんみたいな顔して、
「グリコの株はここでこうなりここでこうなっています。だから犯人がこう買ってこう売ってればこれだけ儲かる。それをやってる可能性はあると見ますネ」
なんて言ってる。ただのバカだ。『闇に消えた怪人』や『真犯人』の株の話は、おれの頭で考えれば株の知識なんかなくてもすべてタワケているとわかる。
 
 
 
――と、いった話をなんで今回いきなりしたかと言えば、
 
画像:罪の声を加えた5冊のグリ森本
 
この5冊の本である。前回に書いたように図書館に本を返してまた借りて、『罪の声』も借りてきたのだ。で、読んだら案の定、【株価操作が目的だった】で話が作られていた。そして書いていることがてんでバカらしいものだった。
 
からである。株価操作の部分についてこの話をバラすのを、おれはミステリ読みに対するマナー違反とは思わない。それに大きなミスを見つけた。株の話で株の知識がなくてもわかるミスがあるのだ。
 
一方で前回の読みの、
【〈キツネ目の男〉は北朝鮮の元拉致要員で、事件は日本を恐怖のズンドコに突き落とそうともくろんだ金日成か金正日の陰謀だった】
なんていうんじゃないだろうな、というのはハズレていた。そういう派手なもんではなくてえらい地味なお話で、〈推理小説〉と言ってもこれは犯人が誰かといったものでなく、前回見せた映画版の、
 
画像:罪の声CM姉弟らしき子供の写真「この子供達は今どこでどうしてるんでしょうか」
 
というのを謎とするもので、その話はやはり前回見せたように、
 
画像:罪の声CMベランダの女 口をふさぐ女 顔を覆う男
 
画像:罪の声CM攫われる子供 泣くおばさん 泣くおじさん
 
こういうもので、暗い。しかしこっちについて、このブログで内容におれが触れることはありません。
 
って言うか、触れたくない。記憶から消し、読まなかったことにしたい。『飢餓海峡』や『砂の器』が嫌いなおれが論評するものじゃないとだけ言っておきます。
 
グリ森、いや、ギン萬事件の犯人と動機や目的といったものは400ページある本の50ページ目に早々に明かされ、後の話はなんの意外性もなく〈答え合わせ〉で進んでいく。犯人は、
 
画像:映画版解説
 
これに書かれる映画では星野源が演じるらしい曽根という男の伯父で、これが左翼とのトラブルから〈ギンガ〉をクビになった男で、過激派として活動し、ヤクザや企業恐喝屋との繋がりがあり、株の世界にも通じているなんてなことが1章目で書かれてしまう。
 
   〈最重要参考人〉と呼ばれた宮崎学だってここまで怪しくない。
 
のじゃないかという経歴だ。宮崎学はグリコをクビになってるというわけではないんだろ……と思ってしまうほどのものだが、もしこんなのが本当にいたら警察の捜査線上に名が浮かんでるんじゃないのか? グリコを悪い辞め方した人間はみんな調べられてるはずだし、左翼もサヨクというだけで捜査対象になっていた。そんな捜査に関しては日本の警察は優秀じゃないのか。
 
と思うんだけどなあ。この〈伯父さん〉は事件の前から周囲に対して、
 
   *
 
「その二人と株が結びついたので、私は達雄にやめとけと言うたんです。具体的な企みは分かりませんけど、とにかく引いとけって」
(略)
「伯父は何と答えたんですか?」
「何も言わずに笑ってました」
 
アフェリエイト:罪の声
 
という調子であったという。そんな人間が警察に眼をつけられずに済むとはちょっとおれには受け入れがたいのだけど……。
 
ねえ。しかしノーマークだったのを、主人公の新聞記者が見つけ出す。訪ねていくとアッサリ認め、〈ギンガ〉への復讐とともに株価操作で儲ける計画だったのを告白する。
 
画像:罪の声322-323ページ又市と萬堂を選んだのは
アフェリエイト:罪の声
 
こうだ。〈萬堂〉が森永で〈又市〉というのが丸大である。丸大で株の動きがなかったのに理屈をつけているのがわかるね。
 
しかし、何言ってやがんだか。これがおれの見つけたミスだが、丸大食品の脅迫は9月の時点で世に知られてないんだぞ? なのにどうして間にそれを入れるのが、製菓会社だけを標的にしたものではない、と森永を油断させることになるのか。
 
画像:罪の声試し読み又市の発覚は萬堂の後
アフェリエイト:罪の声
 
発覚は11月になってから。朝日新聞がスッパ抜き、〈彼ら〉が認める手紙を書いた。それに書いてあったのが、
《わるでも ええ かい人21面相の ように なって くれたら》
このとき初めて一般社会は丸大が脅迫されていたことを知る。事件の流れから言って、森永、いや萬堂が又市の脅迫をリアルタイムに知って「製菓会社だけが標的ではない」と考えるのは有り得ないのだ。上の赤で囲ったところに自分で書いてることの意味が、ちゃんとわかってないんじゃないのか。
 
ウィキにそっくりの文があったが、あれを写しただけなんじゃないのか。かもな。やっぱり、
 
画像:罪の声マンガ版2巻空売りですよ
アフェリエイト:罪の声2
 
こんな人間にこんな顔して言われたことをわからないまま引き写して書いてんじゃないかな。
 
そうだろう。株の専門家ではあっても事件の詳細を知らない者が株の動きだけ見て話したことなのだ。しかしそれに気づかない。「専門家が言うことだから」とわからぬままに信じている。これがそのまま印刷され製本されて何十万部も読まれているとは……それだけいながら、おれが見てすぐ気づくことに気づく者がいないとは……。
 
あきれてものも言えんわ。でもって、この〈伯父さん〉の計画は一応成功したのだそうだが、
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之