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端数報告5

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なぜかと言えば、どうやらこのとき森永の副社長だった高木貞男という人物によるところが大きいらしい。これがなんだかとんでもない〈艦長代理古代進〉で、犯人達を〈白色彗星帝国〉のズウォーダー大帝みたいに捉えて、世に向かって、
 
「皆さんの中には、カネを払うのが利口だと考える方がいるかもしれません。違う! 断じて違います。ハートの森永、森永のハート。それが森永の真理であり森永の愛です! ワタシは戦う。断固として戦う。ワタシは会社を潰す覚悟で犯人達と戦います!!」
 
画像:さらば宇宙戦艦ヤマト指差す古代進 アフェリエイト:さらば宇宙戦艦ヤマト
 
だとか叫んだのだった。でもって『キツネ目』によれば、
 
画像:キツネ目174-175ページ高木は吊し上げ
アフェリエイト:キツネ目
 
こういうことになったりもするが、〈古代進〉はくじけなかった。会社の株を下げることをわざわざバンバンやらかして、株価が下がる下がる下がる。この〈艦長代理〉についてはあんまりにもおもしろいので今後バシバシこのブログで書かせてもらおうと思ってるのだが、この事件で会社の株を下げた代わりに自分の〈株〉は上げたらしい。
 
マスコミや政治家さんには受けがよかった、ということである。ちょっとスキャンで見せたぶんだけでおわかりになると思うが、この『キツネ目』の著者もこの人を讃える讃える。どっちかと言うとこいつのせいでまかり間違えば子供が毒入り菓子を食べることになったかもしれない、ということにこの本の論法ではなるんじゃないかとさえおれには読んで思えたのだが、そういう見方では事件を見ない。
 
おれの眼で見る高木という人物は、
【組織のトップに立たれると下やまわりが迷惑する人】
だ。それ以外のなんでもない。つまり古代進であり、『2202』の、
 
   *
 
「皆さん。11番惑星で皆さんを救助し、地球へ送り届ける。それが私達の思いでした。しかし、事態は思いがけない方向へ向かってしまった。本当に、本当に申し訳ない。ここから先、ここから先、何があろうと、森一尉が地球へご一緒します(森雪に相談なく勝手に決めてそう言っている)。ユキ、ユキ、聞こえているか。君には、謝らなきゃならないことがたくさんある。怖かったんだ。危険な航海に巻き込んで、君を失うことを。いや、それだけじゃない。君と一緒にいると、それだけで充分で、幸せで、他のことなんかどうでもよかった。当たり前のことが当たり前にできない、今の地球に埋もれてしまいそうで、怖かったんだ。だからおれは、君から離れようとした。でも君は〈ヤマト〉に乗り込んでいた。それを知ったとき、うれしかった。理屈じゃない。ただただ、うれしかった。俺は、どうしようもない、弱くて、身勝手な人間だ。これから起こることは、君にはなんの関係もない。生きていてほしい。君を失うなんて耐えられない。どんな罪を、背負い切れない罪を背負うことになっても、俺は!(そこで通信が切れる)」
 
アフェリエイト:宇宙戦艦ヤマト2202純愛篇
 
これみたいなもんで、おもしろすぎる。「おもしろすぎる」と言う以外になんの言葉も見つけられない。こういう人に賛同し、支持し支援する人が世の中には結構いて、おれが住んでた下妻の道を町の議員の街宣カーが、
 
 
   「ワタシがこの下妻の食の安全を護ります、
   森永の高木副社長を応援することで!」
 
 
と流して通るのがひっきりなしなもんだから、もうたまったもんじゃなかった――ってのはもちろん話を作ってるんだけれど、とにかくこの人物は一部に受けがよかったらしい。
 
犯人一味を〈公共の敵〉と見なす者にだ。だから〈識者〉にもてはやされて、おおいに〈株〉を上げていた。会社の株は下がるところまで下がりきり、グリコが脅迫の終わった後ですぐに株価が戻ったのに対し、森永は回復に何年もかかったという。
 
それでは株を売り買いしてもあまり儲けにならんだろう、というのは株の素人でもたやすく察しがつきますよね。株価操作のための犯行であるのなら森永を叩き過ぎている。毒入り菓子を撒くにしてもやり過ぎで、度を越したら利益が減るのがわからなかったのか、ということになる。
 
というのは株の素人でもたやすく察しがつきますよね。【グリ森事件は株価操作のための犯行】というのは話がてんでおかしいのだ。
 
おれの頭で考えればね。グリコはともかく、他の企業を見た場合には株の知識なんかなくてもそんな話はおかしいとわかる。森永の脅迫では、高木が徹底抗戦するものだから〈彼ら〉もまた徹底的にやるしかならないことになった。
 
と見るのが妥当だろう。だから株は関係ない。さっき見せた本の中にも書いてあったろ、
《かい人21面相の脅しに屈することなく耐え続ける森永は、キツネ目の男にとって忌々しい存在でしかない。カネは取れないまでも、逆らった代償を払わせない限り、面子に関わるということだろう。ゲーム感覚ではじめた犯罪は、いまや世の中を揺るがす重大事件と化していて、その檜舞台で踊り、観る者の期待にたがわぬ悪を演じようとしたのである。》
と。当たり前だ。そりゃそうである。ほんとは望んでいないことでもやらんわけにはいかなくなる。
 
高木貞男の存在なしに事件は後に語られるようなことにはなっていない。
 
そして吉山利嗣のスッパ抜きなしにもそうはなっておらず、間に鈴木邦芳の嘘がなければまた違った展開をしている。
 
わけだ。わかるね。ヒューマン・ファクター。それが話の流れを変えて、事態を思いがけない方向へ向かわせてしまうことになる。この事件ではありとあらゆる局面で、それがあまりに多くあった。NHKの再現ドラマは記者Dの「それが犯人の狙いなんやないのか」の後、鈴木邦芳がまた記者団に取り巻かれ、
 
   *
 
記者団「刑事部長はっきり嘘やって言いましたよね!」「『知らない』とか『言えない』とゆうんやったらわかりますよ。それをまったく違う方向へミスリードするなんてひどいでしょう!」
鈴木「いやいや申し訳ないと思ってますよ。ただ君達を撒かないと、犯人逮捕はできない。わたしの立場も理解してほしい」
 
画像:鈴木に詰め寄る記者団
 
というようなことになる。その者らが去った後で上川演じる加藤は部屋に入っていき、
 
   *
 
加藤「お疲れのようですな」
鈴木「あ。この事件は捜査以外のところで疲れるよ。加藤さん。犯人を捕まえたら必ず教えるから、それまで一切書かないでもらうわけにはいかないかね」
加藤「それは警察に『捜査すんな』言うてんのと同じなんちゃいますか?」
鈴木「そうだね」
加藤「なんでこんなんなってしもうたんですかね」
 
画像:加藤と鈴木
 
と言う。それはお前がもともと最初の始まりの日に、警察無線の盗聴で記事を書いたからじゃないのか? 《電電公社にも》の6文字が省いて書かれたことに始まってんじゃないのか。
 
とおれは思うのだが、わかるだろう。これもヒューマン・ファクターだ。記者Dは「それが狙いなんやないのか」と言ったが、こういうことは狙ってできるものではない。
 
おれが書いてネットに出してる『ヤマト』のリメイク小説に、
 
   *
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之