端数報告5
思い出すたび腸(はらわた)が煮えくり返ることになるだろう。コロナを信じる人間は、心の腐った人間だ。心が腐り切っているからナンバーくじの予想に飛びつき、「波が来る波が来る」とわめきたてた。オレ達はそんな連中に貴重な青春を取り上げられた。
たぶん一生そう言い続けることになるし、間違いなくそれは事実だ。なんだかんだ言いながら修学旅行や文化祭をおれも結構たのしんだし、高三の秋ごろになるとそれまでアニメを見ることはあっても原作マンガを読むことがなかった高橋留美子の『うる星やつら』を、たとえばこれはコミックスの32巻か33巻だったか、この話などを、
画像:うる星やつら潔癖の要塞
アフェリエイト:うる星やつら17
「このような高校生活は現実にない」
と思いながら野犬が人間の死体でもむさぼり骨までしゃぶるようにして読んでいた。その少し後に『ボーイ・ミーツ・ガール』が描かれ、それが最終話なのだと知って愕然とした。
それがおれの18歳だ。現実の高校生活はマンガに描かれるようなのと違う。そう言うのは簡単だし事実だが、言って納得する者はいない。いるわけがない。
「高校行ったらバイトして、免許取ってバイク乗るんだ」
中学のときにそんなこと言う人間はどこにもいて、やって事故って死んだやつもおれの高校にひとりいたけど、今は飲食店にせよなんにせよバイトを雇うどころじゃない。マスコミや木っ端政治家はいい。〈波〉が来る危険が高まってるのが自分にはわかるとわめいていればそれで気分も晴れるんだから。だが高校は〈第三艦橋〉。今そこにいるアムロ・レイの歳の気持ちはどうなるのか。
15、16、17と――昭和の昔にそう歌った歌手がいた。『キツネ目』の本にはグリ森事件犯人の手紙にその歌をもじったものがあるとある。と言うか、NHK『未解決事件』でも画面に映るのだが、
画像:犯人の手紙「わしらの人生くらかった」
これだ。しかし『キツネ目』の著者は、同じ文を出して見せながら、
*
(略)下卑た言葉を使いながらも、芝居がかったセリフを好み、面白おかしく警察を揶揄し、ときに戯れ歌まで詠んでみせた。
アフェリエイト:キツネ目
などと書くだけで、〈彼ら〉がこれをどんな思いで書いたのか推し量ろうとすることはない。ゴキブリのような連中の気持ちなど探る価値もない、ということらしい。それに比べて自分がいかに正義感溢れる立派で高潔な人間なのか読む者にアピールする材料にするだけなのだ。そんな著者のナルシストぶりがよく表れているのが、
画像:キツネ目26-27ページ
このページだろう。こいつは事件の表面しか見ていない。それでは真相に迫ることはできない。果たして〈彼ら〉はどんな人生を送ってきたか。「明日はわしらの天下やで」と書いたとき、どんな思いでいたと言うのか。
そこに迫らない限り、事件の謎を解くことはできない。おれはそう思う。15、16、17と、今のコロナ禍に青春を送った者達が、いつかグリ森のような事件を起こして世を震撼させてくれるのがおれの切なる願いである。
ちなみに、そんな犯罪の話でおもしろいのが何かないかとお求めの方には、例によっておれが書いた、
画像:クラップ・ゲーム・フェノミナン表紙
https://books.rakuten.co.jp/rk/c4c936f145e636b5b3a9d0fee0752ce7/?l-id=item-c-seriesitem
これをお勧めするのですが、また例によって現在このリンクを押してもページにたどり着くことはできません。始めの5分の1ほどのみ、小説投稿サイト〈ノベリスト〉で公開している、
https://novelist.jp/88870.html
このリンクから読むことができます。また、
画像:バレずに済めばいいことだもの
https://novelist.jp/92098.html
この作品も始めの4分の1を上のリンクで読めるようにしました。全文を読みたい方は、
画像:図書館の本を濡らしたら(と6つの短篇)表紙
https://books.rakuten.co.jp/rk/c0ece09decea3050b225c2ac729aa740/?l-id=search-c-item-img-01
これをどうぞ。参考までにこの作品、前に見せたように単品で出していた時、
画像:レヴューバレずに済めばいいことだもの
このような評価をいただいたこともあります。
――と、さて、また前置きがずいぶん長くなってしまったけれど前回どこまで書いたんだっけ。最初の勝久氏誘拐か。まだ最初から進んでないのか。そのとき書かれた脅迫状は、『キツネ目』に、
《推理小説に出てくるような文面だが、〈現金10億円 と 金100kg〉という要求額は常軌を逸しているうえ、〈けいさつに しらせたら 人質を かならず 殺す〉という定番の脅し文句にしても間の抜けた印象を受ける》
と書かれる通りのものだった。要求は常軌を逸しているし、脅し文句はどれも間が抜けた印象を与える。
という話をしたんだったね。今におれが読んでもまったくその通りだと。特に前回書いたように、
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けいさつにも 会社にも 電電公社にも ナカマがいる
ぎゃくたん知 しても すぐわかる
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これだ。有名な「警察にも会社にも仲間がいる」は、正しくはこう書かれている。しかしこんなもん読んでも普通は、
「警察にも会社にも電電公社にも仲間がいるから逆探知してもすぐわかる? こんなのはハッタリだろう。けど、ハッタリにしても間が抜けてねえか? まるで2時間ドラマ、と言うより、『西部警察』か『秘密のデカちゃん』の誘拐犯が書いた脅迫文みてえ。『秘密のデカちゃん』、おもしろかったね。石立鉄男と大場久美子が、親子だけど夫婦なんだよ。そこに署長の娘とかが……」
などと言いそうなものではないか。おれなら言う。まるで『秘密のデカちゃん』の誘拐事件みたいじゃん。『秘密のデカちゃん』、おもしろかったね。石立鉄男と大場久美子が……とかなんとか。到底本気で十億プラス金100キロなど要求してると思えない。
おれがいま見てそう思うものなのである。が、おそらく犯人は、わざとそう書いている。
おれがいま見てそう思うものなのである。では、そいつは本命ではないんだ。この手紙は書いてあることよりも、書いてないことのほうが重要なんだ――という話をしようとしたんだけれど前回は、長くなりそうでやめたんだった。
だから今回はその続きのはずだったけど、既に長くなってるからなあ。ちなみにNHK『未解決事件』も、
画像:最初の手紙
これを映して見せながら、ナレーターは、
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「警察に報せたら人質を必ず殺す。警察にも会社にも仲間がいる」
画像:未解決事件番組タイトル