小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

端数報告5

INDEX|22ページ/61ページ|

次のページ前のページ
 

という話になった。長岡香料の電話番号! それはグリコの内部でも限られた者しか知らないものなんですね? ならば知ってる人間には、製品に毒を入れられるということではないのですか!
 
という話になった。やはり密かに箱を調べて毒入り菓子が大量にあるのを見つけていたんじゃないのですか。なのに世には隠していたということではないのですか。
 
という。NHK『未解決事件』の再現ドラマでも、上川演じる加藤譲が夜回り先の刑事に向かって、
 
   *
 
「確かにここんところ、書き過ぎの面はあると思う。他社を意識して、どんどんグリコの記事の扱いがふくれとる。せやけど、ぼくらは現場の記者で、記事の扱いは決められへんのや」
 
画像:NHK『未解決事件』番組タイトル
 
なんて言う場面があったが、「ふくらました話」ってのがそういう話だったのだ。長岡香料の件については『捜査員300人の証言』には、
 
画像:捜査員300人の証言76-77ページ
アフェリエイト:捜査員300人の証言
 
こう書かれ、また別に新しく読んだ『真犯人』という本には、
 
画像:森下香枝真犯人98-99ページ
アフェリエイト:森下香枝真犯人
 
こう書かれる。とりあえず赤で囲ったところに注目してほしいが、ここで《(略)》となっているのは前回に書いた、
 
《わしらの CM ようきくで》
 
と同じところだ。〈彼ら〉を『バットマン』のジョーカー、日本を沈没させようとする大津波だとしたい者にはよくよく嫌われる一文らしいな。
 
ちなみにこの人、最初の脅迫状については、
 
画像:森下香枝真犯人72-73ページ
アフェリエイト:森下香枝真犯人
 
こう書いている。ここで《(略)》となっているのはもちろん、
 
《けいさつにも 会社にも 電電公社にも ナカマがいる》
 
だ! なんで? なんでこれを略すの? 事件を語るに極めて重要なポイントのはずじゃん。なのにどうしてこれを略すの。
 
って、答えは決まってるよな。《電電公社にも》の6文字だけを削るわけにいかないから一行まるごとなかったことにしているわけだ。他に考えようがないだろ。しかし、これをやってるということはこの本に書いてあることすべて信用できないものとすべき。
 
だろう。また、
《まだ、江崎社長が誘拐されたことを知らされていなかった藤江取締役は指示に従って自宅近くにあったその公衆電話ボックスまで走った》
と書いているのも嘘、または間違いだ。その重役は既に事件を知らされていて、電話ボックスにはパトカーで行ってる。そのパトカーの警官が無線で読む手紙の声を、加藤譲や他のマスコミは盗聴していた。
 
というのが事実なのは、他の本を見ても明らか。だいたい、深夜の1時に変な電話がかかってきたのを、すぐに信じて電話ボックスに走る人間がいるかってえの。
 
でしょう。この本は題名通り、
 
「ワタシは事件の真犯人を知っている。これは最終報告だ」
 
というものではあるんだけど、電子書籍版のはじめが上のリンクから無料で読めるので興味がおありの方はどうぞ。
 
――が、とにかく長岡香料だ。どちらの本でも、『キツネ目』の本にもあった、
《長岡香料がグリコの大口取引先であることは、社内でも限られた部署しか把握していなかった上、長岡香料研究室の直通番号も公表されている訳ではない》
の話を疑ってないのがわかるが、これはそもそも裏取引に失敗したグリコの人間が警察に謝罪したうえで話したことを警察が、〈レク〉とやらでマスコミ各社の記者達にレクチャーしたものなんだろう。グリコの内部でそう考えた人間達がそう考えたことなのだ。人事部だのなんだのといった部署の者達であり、菓子の製造ラインなんか二、三度人に案内されて眺め歩いたくらいでしかない――そんな者らが考えたこと。
 
ではないのかという疑いすら持たれずに、裏を取られることがないまま信じられてしまってきた。
 
『キツネ目』の本が書かれるまで――なぜ誰も疑わずまんま受け入れたのかと言えば、
 
「やっぱり。それは会社の内部に仲間がいるということですね。そんな番号を知る者ならば、菓子に毒を入れられるのじゃないですか。グリコは密かに箱を調べて毒入り菓子を見つけながら、世に隠してきたんでしょう」
 
という話に持っていくのに都合のいい情報だからだ。指示書にあるのは長岡香料の本社でなく研究室の直通番号、と『真犯人』の本には見せた通りにある。一体なんでそんな番号なのかというのが、ろくに考えることもなく「グリコの内部に仲間がいるから」ということにされている。そしてすぐさま「菓子にはほんとに毒が入れられたに違いない」という話にされる。
 
だが、手紙は長岡香料の社長宛に送られた。内部に仲間がいるんだったらそんな研究室とかじゃなく社長室の直通番号を書けばいいじゃん。その番号もわかりそうなもんじゃん、とおれは思うが今におれが思うことを考える者がこれまでにただのひとりもいなかったのか。
 
画像:通販の箱
 
たぶん、そういうことなんだろうな。いつか見せたこの箱には通販会社の〈通販部〉の住所と〈受注専用〉と〈FAX〉と〈問合せ専用〉の番号が書いてある。本社の住所や電話番号が他にあったとしてもおれにはわからない。
 
 
〈彼ら〉がたまたま手にした何かに書いてあったのがその研究室とかの番号だったというだけじゃないのか。社長室かその秘書室の番号がわからないからそれを書いただけじゃないのか。
 
 
と、おれはあらためて思うのだけどどうなんでしょうね。さらに『捜査員300人の証言』の本には、見せた通り、
《五月二十六日。
 犯人が現金の受け渡しに指定した茨木のレストランには、グリコの社員だけが出向いていた。しかし、レストランにかかってきた犯人からの電話を、グリコの社員が聞き取ることが出来ず、現金の受け渡しは成立しなかった。
 
 実はこの日の真相については、今回の取材で詰め切れなかった。
 大きく二つの説があった。ひとつは、江崎グリコが失敗を繰り返していた警察の捜査を信用できず、企業への打撃も大きかったため、裏取引に応じて事件を終わらせようとしたというもの。
 もうひとつは、犯人を実際に動かすために、警察はあえて関与せず、グリコの社員に対応させたというもの。》
なんて書いてあるけれども、どうなんだろう。やっぱり、グリコの内部でも、内部犯行説を信じて「ネクサス6を見つけねば」と言う者がおり、その〈茨木のレストラン〉で突き止めようとしたのだけれど、まるでダメダメな結果に終わる。グリコが隠しているのは実はそういう話――。
 
というのはどうなのか。『捜査員300人の証言』には、見せた通りに、
《この答えは、今回全く取材に応じることのなかった江崎グリコの担当者にしか分からない。前氏をはじめ、他の捜査員たちも、皆、この件については言葉を濁した。》
と書いてある。へえ、
《皆、この件については言葉を濁した》
か。さて、真相はどうなんでしょうか。
 
作品名:端数報告5 作家名:島田信之