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コートをオーバーに言う人の話



画像:トレンチコート
 
トレンチコートの黒いやつをおれも一着持っている。10年ほど前、
 
画像:スーパーカブトレンチコート
https://comic.webnewtype.com/contents/cub/39/
 
この子と同じにブックオフの古着も売っている店で5千円かそこらで買ったが、秋物なのにこの秋着ないでしまっといたのを広げてみるとシワクチャだ。来年は着よ。
 
トレンチコートはここに書いてあるように塹壕で兵士が防寒に着るものとして生まれた。元は厚地のウールで作るものと決まっていたが、最近ではほとんど女が着るものになり、薄地のものに防水スプレー吹きかけて雨の日に着る。中の服を護るものになっちゃっている。美人が着るならそれもまたよしというものだろう。
 
美人でないならそれはまあ……ムニャムニャということにして、グリ森事件の犯人達は原型に近い厚地のものを勝久氏に着せていた。戦前のものであるから原型に近い。防寒のために着せたのは明らかだが、コートがそんなに古いものならおれや子熊なんとかちゃんと同じに古着を買った可能性もあるんじゃないのか。
 
【古着屋でそれがいちばん安かった】
という、ただそれだけの理由によって選ばれた可能性もあるんじゃないのか。という話をおれは前にここに書いた。可能性。あくまでも可能性の話だが。
 
しかし可能性があるということは重要だ。何しろ可能性があるんだからな。最近、ここにたびたび書いてる隣のおばあさんが見てるテレビのニュースの声を、壁越しに聞いているとどうやらコロナの専門家と呼ばれる者らは、
「可能性がある」
だとか、
「おそれがある」
としか今では口にしなくなったようだな。感染者も死者も重症者も減っているけど感染は数値に表れないところで拡大している可能性がある。だから〈波〉が来る可能性がより高まっている可能性がある。
 
というような言い方しかまったくしなくなったらしい。ひとりがそう言うものだから、みんなが、
「そうだその可能性がある」
「そうだその可能性がある」
と口々に言うようになり、専門家みんなが言うからそうなのだ、ということになる。
 
「可能性がある」というのは便利な言葉だ。それを言ったらどんなことでも言えるようになってしまう。新型コロナは中国が極秘に作って故意に漏らしたウイルス兵器の可能性がある。いやアメリカがそう見せかけた可能性がある。宇宙人が地球侵略のために放ったナノマシン兵器の可能性がある。学者・政治家・官僚・マスコミといった〈かれら〉に利用価値のある者だけ残して他は殺される可能性がある。「感染拡大防止の観点」「感染拡大防止の観点」と声を大にして言った者だけ助かる可能性がある。
 
という。「可能性がある」と言ったら可能性がないことでも可能性があることにできる。だからわかっていないのにわかった顔でペラペラとテレビの中でしゃべる者らが事を大きくふくらませ、見た人間がまた話をふくらます。そういうのを、
 
   〈オッカムの剃刀〉
 
と言うのだけれどなんでオッカムのカミソリと言うのかおれは知りません。知ってる人は知ってるでしょう。ええと前回におれはここで、NHKはグリ森事件が未解決なのをいいことに自分達マスコミに都合のいい方向に話を持っていこうとしているという話を書いたね。長岡香料だ。長岡香料の電話番号を知っているのはグリコの内部に犯人達の仲間がいるということで、菓子に毒を入れられる立場にあるということだ。だから菓子には実際に毒が入れられたに違いない――当時のマスコミはそういうふうに話を持っていこうとした。
 
というような話を書いた。前回見せた『捜査員300人の証言』って本には、
 
  *
 
 NHKの担当記者をはじめ、当時の新聞記者たちにも話を聞いてまわった。
 ある新聞記者は、こう語った。
「犯人の派手な動きを世間が楽しんでしまっている感じさえあった。でもそれは、我々の報道が世間を違う方向に導いてしまった結果ではないかと思うこともないわけではない。ただ、あれだけ世間を騒がした事件で、しかもお菓子に毒を入れたって犯人が言ったでしょ。嘘だと思っていても、もし本当だったら大変なことだよ。国民の安全を脅かす情報を報道しないという選択肢はなかった」
 
アフェリエイト:捜査員300人の証言
 
こんなことが書いてあったが、嘘だ。この人物が当時本当に言っていたのは、
 
「社長の江崎勝久は何か隠してますね。出荷前の製品の箱を密かに調べて中に毒入り菓子があるのを見つけてるんじゃないでしょうか。回収したお菓子の中にも、毒が入ってたんじゃないでしょうか。それも何千というような数で――人を確実に殺せる量の青酸がですよ。それができる人間が、会社の中にいるってことです。だけど、『一切の検査をせずにすべて廃棄処分した』と世間には発表している。嘘ですね。創業者の利一が生前にした悪行に恨みを持つ者の仕業だから、何億かのカネを払って許してもらおうとする可能性はかなり高いと見るべきじゃないかと……」
 
なんていうような話。当時のテレビは〈識者〉にそんなコメントをさせた。視聴者にそれを信じさせようとした。あいにく、真に受けた人間はごくわずかしかいなかったが。
 
おれの高校のクラスにも本気にしたのがふたりくらいいたけれど、ふたりくらいしかいなかった。マトモな95パーセントは最後の最後までマトモだった。今でもマトモな95は、グリ森事件について訊いても、
 
「面白い事件だった」「センスのある犯人だった」
 
なんて言うだけだろう。それが正しい。なんて話を、おれは前回ここでしました。
 
 
   グリ森事件の真犯人はマスコミだ。
 
 
事件を事件にしていたのはマスコミだ。事件は現場で起きてたのじゃなく、テレビ局と新聞社の報道部で起きていた。そこにいる者達こそが真の愉快犯であり、社会を劇場とする犯罪をたのしみながら行っていた。今にそいつらは事実をごまかし、罪を〈かい人21面相〉達になすりつけている。
 
というのがおれの考えるあの事件の真相だ。特に滋賀県警本部長・山本昌二氏。この人物を殺したのはマスコミだ。この死については誰よりもマスコミにその責任がある。だが腐り切ったやつらは罪を〈彼ら〉になすりつけてる。この4冊の本もすべてがその目的で書かれたものだ。
 
画像:4冊のグリ森本
 
というのがおれの考えるあの事件の真相だ。まったく、許し難い。前に見せたが、『キツネ目』の本には、
 
岩瀬達哉キツネ目16-17ページ
アフェリエイト:キツネ目
 
こんなことが書いてあるページがあった。これがグリコの製品に毒を入れた手紙の記事が出た直後のことであり、ここで棘のある質問を勝久氏にしているのが、
 
   画像:加藤譲ちょっとでも肉付けしたいという思いで
 
こいつじゃないかという話を前に書いたけど、NHKの本からさっき引用した《ある新聞記者》ね。そいつも、加藤譲じゃないのかしら。
 
わからないけどね。加藤に限らず当時のマスコミはみんながみんなその調子でもあったろう。この会見の後で長岡香料の話が出ると、
「やっぱり」
作品名:端数報告5 作家名:島田信之