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「いやいや、田舎警官どもの上に立ったからってなんだ。オレは中央の人間なんだ。国家公務員なんだ。能無しどもを管理監督するのが務め。『なってないね』と言ってやる今の仕事に比べたら……」
 
と思い直す。それが彼の毎日であった。だから四方も山本も、彼には気に食わぬ存在でしかない。落ち度を見つけて足を引っ張る。それしか頭の中にない。そんな人間が犯罪捜査のことなんか何も知らぬのにグリ森事件の捜査指揮官となっていた。
 
のかどうかはわからない。『踊る大捜査線』で柳葉敏郎が演じていた室井はそんな人間でなかった。青島刑事と歯車をガッチリ噛み合わすことで、お台場に建つ警察署をトルクを付けて動かし、事件を解決に導く。あのシリーズはそこが見どころだったと言えるが、グリ森事件の捜査というのは迷走するばかりだった。
 
としか思えん。とすればやはり、原因が鈴木邦芳にないのかどうか、疑うのがスジだろう。鈴木という人間に果たして問題はひとつもないのか? いや、おおいに疑わしい。ここで、
 
画像:札を撮る刑事達
 
こいつの話に戻るが、6667枚の写真が出来上がってみるとほとんどピンボケで、なのに経費が50万。人件費がまたこれだけで50万。合計百万だったとする。
 
アフェリエイト:フロスト日和
 
R・D・ウィングフィールドの〈フロスト警部シリーズ〉を読むとそんな話ばっかりだ。ちなみにこれは1997年に邦訳が出たシリーズ第二作目だが、おれが読んだのはこいつからだった。鈴木邦芳が写真を撮った刑事達を並ばせて、
 
「なんだこれは。ボクはあのとき『よろしく頼むぞ』と言ったよな。君ら、『ハイ』と応えたよな」
 
言ってやると、
 
「はあ、すんまへん。あんなこと、やったことがないもんすから」
 
「ハア? 何を言ってんだ。君ら、プロの刑事じゃないのか」
 
「いや、だからってあんなこと、やったことがあるわけないでしょ。額が千万か二千万なら、手分けして手で書いたんですけどね」
 
「ボクは『ピントを合わせることもできんのか』と言ってるんだ!」
 
「だから誰もあんなこと、やったことがないんですよ! 現像したやつに『三脚使えばよかったんだ』と言われましたが、それを知るやつがいなかったんです。だいたい、誰かがどうやればいいか、わかる人間を探して聞くべきだったんやないんですか」
 
「なんだその『誰か』ってのは。ボクのことを言ってるのか」
 
「別にそうは言ってません」
 
「言ってるだろうが! 言い訳するな。君のしてることは責任転嫁だ。これだけいてカメラのピントを合わせられるのがひとりもいない……」
 
「知ってるやつに言わせると、あれでピントを合わせられる人間なんかおらんそうです」
 
「それが言い訳だと言うんだ。十億円をまんまとホシに持ってかれてたらどうするんだ」
 
「そもそも受け渡しの場所に来なかったやないですか」
 
「そういう問題じゃない!」
 
「いや、どうですかね。だいたい、あの件は全部おかしいですよ。タチの悪いイタズラだったんやないですか」
 
「そうやって自分の失敗をごまかすつもりか。それでこの印画紙の山をなかったことにできるつもりか。ああ? そうはさせないぞ。君らはボクが『ちゃんとピントが合うのか』と訊いたのに『大丈夫です』と応えたのだ」
 
「待ってください。なんすかそりゃあ――」
 
「いや、ボクは確かに訊いた!」
 
 
 
――なんていうのが小説であれなんであれ、おもしろい話の作り方であって、これをやると読者をグイグイ引き込むことができるわけだ。『装甲騎兵ボトムズ』は、カンユー大尉の〈クメン篇〉がいちばんおもしろい。前回、前々回に見せたミゾロギなんとか著『未解決事件の戦後史』には、十億プラス金塊の要求の話が、
 
画像:未解決事件の戦後史198-199ページ
画像:未解決事件の戦後史表紙
 
こう書かれている。これはウィキでは、
《合同捜査本部ではどこまで犯人グループが本気で要求していたのかいぶかる声もあったが、》
と書かれているものが省略された文とも言える。
 
〈運搬が困難〉と〈怨恨説の根拠となった〉の間を省いてつなげている。だが実際に現金と金塊の山を目にした刑事らが、嵩が凄いというだけで「怨恨では」と言ったものかどうか怪しい。根拠にしたのは「運搬が困難」という言葉を聞いた人間じゃないのか。この日、テレビは新たな情報が入るたびにその内容に関係なく「怨恨では」と言ったのじゃないのか。箸が転がったと言っては怨恨。太陽がいっぱいだとか、月がとっても青いからと言っては怨恨。
 
二時のワイドショー、二時の夢。三時のあなた、あなたの三時。四時の怨恨に怨恨の五時。そう歌ってどんなことでも怨恨の確かな根拠としたのじゃないのか。だが次に置く〈彼ら〉の脅迫状を読めば赤の枠で囲ったところに、
 
画像:最初の脅迫状
 
《現金と金は 白か アイボリイの ライトバンに のせて》
《現金や 金や 車には ぜったい さいくするな》
と書いてあるのがわかる。
 
クルマごといただく気なら十億プラス金塊は持ってけるには持ってけるのだ。そう考えるべきだろう。別に「極めて困難」てわけでも、「到底不可能」というわけでもない。
 
だが、やっぱり間が抜けている。クルマごと持ってくつもりなんやろうけど、まさか。色でも塗る気なんか? 無理やよ、なんか貼る気なんかな、ナントカとうふ店とか。いや、そんなもんで……。
 
などと普通は思いたくなるはずの文だ。まして、札を写真に撮ったり、薬品を塗らされたりする立場の者なら。だから作業しながら実は、NHK『未解決事件』の再現ドラマと違って皆がそんな話をしていた。
 
のではないのか。誰もその場所に行くと、AKを持った十人が待ち構えているかもしれない、なんてことは考えてない。
 
一見間抜けな印象の文は油断させるための罠かもしれない、なんてことは考えてない。
 
まあ実際にそんなことはなかったわけだし、それどころか犯人が受け渡し場所に来ないという形で作業は無駄になってるのでは「なんなんだよ」という話になって当然だが、だからと言って刑事達は「怨恨では」と言ったのかどうか。
 
違うんじゃないか。ミゾロギなんとかみたいなのがそういう話にしているだけで、刑事達は、
 
 
   「これ、やっぱり、タチの
   悪いイタズラやあらへん?」
 
 
と言っていたのじゃないか。まだこの段階では、ということだが。
 
「怨恨では」と言っていたのはマスコミで、ウィキにその根拠として、
《グリコがすぐ10億円を用意できることを知っていたことなどである》
とあり、ミゾロギの本に、
《一部上場企業でさえ簡単に揃えられそうにないケタ違いの要求だったが、グリコはそれをすべて用意した》
とあるのは、
「用意できたのはおかしい。江崎利一が隠匿していたものじゃないのか」
という話になり、
「犯人達はそれがあるのを知っていた」
という話にしたということだ。だから内部の犯行であり警察にも仲間がいるとの話になった。
 
刑事達はこの時点では「バカバカしい」と言っていたが、しかしその手の与太を全部真に受ける者もいた。
 
それが、
作品名:端数報告5 作家名:島田信之