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ドールメイカー

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ep3.カーネリアンの輝石




 僕の名前はネリア・ガネット。
 ドールマスターになって有名になるのが夢の女の子です。
 長い距離を旅してドール職人の盛んなドール旧市街へやってきた僕は、三大ドールマスターの一人であるルチル・ラドライト様のもとでメイカー修行をしている真っ最中!
 一文無しで店へ転がり込んだ僕は、偶然居合わせた少年のドール修繕費用を働いて返すことを条件に、ルチル様の工房に住み込みで働かせてもらっています。

 今日もルチル様の工房「メレーホープ」の床をきれいにお掃除。
 ドール作りの道具やドールが置いてある地下室には見習いの僕は入れないけれど、店舗部分の清掃は弟子の最初のお仕事だそうです。
 最初はうまく出来なくて観葉植物を倒してしまったり、照明を割ってしまったりしたけど、今は何も壊さずにきちんとお掃除できます。伊吹さんだって誉めてくれたんだから! あ、伊吹さんっていうのは、ルチル様のお師匠さまにつくられた老紳士のリアルドールで、僕にもとっても優しくしてくれる、お爺ちゃんのような存在です。

 メレーホープの看板娘の小さなフロイライン、クロシュちゃんとも仲良くなれたし、僕のメイカー修行は順調そのものと言っていいかもしれません。


「おい、ネリ子。なに書いてンだ?」
「ぎゃっ! スピネル!? 見ちゃダメです、ヘンタイ!!」
「誰がヘンタイだ! んだこれ、日記かァ?
 なになに、メイカー修行が順調? バーカ。掃除しかしてねェくせに何書いてンだ」

 僕の書いた日記を勝手に取り上げて、堂々と読んでる茶髪の男性はスピネル・ジャスパー。
 僕と同じく、ルチル様の弟子で、いっっつも僕に酷いことを言う酷い人です。きっとスピネルは悪口しか言葉を知らないんです。じゃなきゃ毎日毎日こんなに悪口ばかり言える訳ないですよ!
 僕のメイカー修行に障害があるとすれば、このスピネルだ。スピネルはルチル様に自分以外の弟子が居るのが気に入らなくて、僕に意地悪ばかりするんです。


「それよかネリ子。マスターが買い物に行って来いってよ」
「え! ルチル様が?」
「ほい、メモ」
「えっと……。も、もももしかしてこれって、ドールの材料ですか!?」

 ドールは心核(コア)に命を吹き込むまでは普通のお人形――昔ながらのオルディドール――と、ほとんど同じ作り方をします。
 作業に使われるリアルドールは頑丈でないといけないから、もっと違う材質のもので作ったりするけど、基本の手順はどのドールも同じです。
 メレーホープのドールは大半がファンシードールなので、見た目がかわいらしかったり、手触りが良かったりと、お客様の好みに合わせて様々なドールが置いてあります。このドールの洋服や装飾を仕立てるのもメイカーの大事なお仕事なのだ。
 ドールの服なんかは普通の生地屋さんでも扱ってたりするけど、基本的に工房で作るドールの素体の材料は専門のお店で買うのだと伊吹さんが言っていた。僕は一度も行った事が無くて、お店に行くのを楽しみにしてたんだけど、まさかいきなりお使いを頼まれちゃうなんて! なんだか、すっごくドキドキする。

「あと材料費な。間違えて違うの買ってくンじゃねーぞ」
「え、僕一人で行くんですか?」
「当たり前だろが。さっさと行って来い。地図も用意しといてやったから」
「わわわ、が、がんばりますっ!!」

 これはきっとルチル様から僕へのメイカー修行に違いありません。
 正直、僕はすこぉしだけ方向音痴で、ちょっぴりドジで、不安な気持ちもあるけど大丈夫。
 今の僕はルチル様の弟子。やっとここまで辿り着けたんです。お使いくらいお茶の子さいさいちょちょっとぱっぱですよ!
 メモとお金を僕の唯一の私物のバッグに入れて、ほっぺを両手でぱちん!

「じゃあ、いってきまーす!」

 お店までの地図をしっかりと手に持って、メイカーとしての修行・第一歩に出発です!
 気合を入れて出ていく僕を見て、スピネルが意地悪くにやついていたことに、修行で頭がいっぱいだった僕は気付きもしないのだった。


作品名:ドールメイカー 作家名:竜胆うゆ