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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Hardhat

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 河原は結論を勝手に導き出すと、高速道路の入口に進路を変更した。梅野が何も言わずに座ったままでいると、環状になっている路線に合流して言った。
「ちょっと時間潰すか」
 梅野は流れる景色に集中力を削がれたが、すぐに正気を取り戻したように、河原の横顔を見た。気まぐれでこんな行動を取る人間ではない。
「ずっと走るんですか」
 梅野が訊くと、河原はうなずいた。合流を終えた車の動きが緩やかになり、流れができたところで言った。
「昨日、この車の写真撮ってたな。なんで?」
 梅野は、どうして高速道路を周回しているのか、その理由を瞬時に理解した。逃げられないようにするためだ。河原は自分の想定していたペースで答えが返ってこないことに苛つき、残った指でハンドルをこつこつと叩いた。
「なんで?」
 ジョイントを踏むときの音が、緩やかなカウントダウンを刻むように時折鳴って、梅野は手の平に滲みだした汗を隠すように拳を固めた。河原は、ノックをするように手を丸めると、梅野の側頭部を小突いた。
「ガソリン切れるまで、三十周ぐらいできるで。生きて降りたいやろ?」
 梅野は助手席側の窓に張り付くように体を寄せて、河原の手から逃れようとした。いよいよ河原の手に力が籠り始めたとき、言った。
「河原さん、今回の件なんですけど。人を殺したりとかも、想定してるんですか」
「してるよ。なんや、揉めてんのか? なんで受け渡しなんか、それも気になってたんやけど。ややこしい相手なんか?」
 河原は頭と喉の間にあるストッパーが抜けたように、一気に言った。梅野は、自分の手の汗が引いていくのを感じた。こいつは、スナック菓子だけで脳をフル稼働させてきただけあって、頭の中はやはり空っぽだ。
「自分も、怪しいと思ってたんです。向こうは、車の特徴を教えろと。小包握られてる以上、言うこと聞く以外ないじゃないですか」
 梅野が言うと、河原は簡略化された思考回路でそれを噛み砕き、納得したようにうなずいた。
「どんな奴や?」
「長男です。頼本新一。僕の勘ですけどね、多分手ぶらで来てます」
 言葉ひとつひとつが、食べ物の中に入り込んだ砂のように、河原の怒りに火を放っている。梅野がその様子を助手席から観察していると、河原は小さく舌打ちして、呟いた。
「そうか」
 その怒りは、自分から逸れている。梅野は助手席に少しだけ深く体を預けると、言った。
「事故の金で、随分家計が楽になったらしくて。最初はわざとぶつかるような事故をお膳立てしろってね、言われたんですわ」
「中身が何かは、知ってんのか?」
 河原はハンドルをこつこつ叩きながら言った。まだ半周もしていないが、こうやって走っている理由はなくなりつつある。梅野は窓の方へ首を傾げた。
「それは分かりませんが、知ってると思っといた方が安全でしょうね」
 流れる景色以外の全てが、形を変えつつある。梅野は河原の横顔を見た。思考回路は単純だが、単純な結論の積み重ねでここまで生きてきたのだから、必ずしも的外れではないのだろう。相手任せではあるが、風向きが良くなっている。梅野が小さく鳴るラジオに合わせて口笛を吹きかけたとき、河原は言った。
「あの家にとって一番大事なものは、なんやと思う? 金か?」
「大事なもん、すか。なんでしょうね。大人と子供とでは、違う気もしますが」
 梅野が言ったとき、河原は求めていた答えを得たように何度もうなずいた。アクセルを深く踏み込み、前を走るシエンタを追い越すと言った。
「一周して降りたら、そのままいこか」
「やっぱり、力ずくですか?」
 梅野は自分で方向をねじ曲げたとはいえ、河原の頭の中を完全に見通すことはできず、思わずそう口に出した。河原はばらばらの歯をむき出しにして笑った。
「とりあえず喋れたら、他の部分はどうでもええやろ?」
作品名:Hardhat 作家名:オオサカタロウ