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小説アメリア・イヤハート事件

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そう──もうおわかりだろう。この本は、綿密な考証によって構築された実際の事件に基づくドキュメント・タッチのスリラーなどではさらさらない。陰謀論者のペーパーバック・ライターが時流に乗って書き上げたワンマン・アーミー映画もどきのB級アクション小説であり、その内容はまさにこれが設定する時代に量産されたパルプ・フィクションそのまんまなのだ! 太平洋戦争前や戦中、欧米では日本兵を非道の限りを尽くす悪者として描く三文小説が多く読まれていたと聞く。そんなのの80年代再現版が、今になってなぜか日本に、訳さんでいいのに訳されてしまったのである! 何考えてんだ出版社! こんなものは紙の無駄だ!

とにかくちょっと、この本がどれだけひどいか抜き出してみよう。次の文は、主人公と情報部員の男とのバーでの会話の一部である。

   *

「日本の赤丸の旗が太陽を意味することは知っているだろう。やつらは二千六百年前に、太陽からこの地球にやってきた太陽人なのだ。実は太陽は、熱い星ではないんだよ。ジャップの仲間が、あそこにはまだ大勢いるんだ」

「太陽が熱くないだって? そんなバカな」

「俄(にわ)かには信じられないだろう。だが事実だ。君は知らず知らずのうちに、ユダヤ人に操られているんだよ。我々はユダヤ人によって、太陽が熱いと思わされている。ユダヤは日本──つまり、太陽人と手を組んで、世界征服を狙っているのだ」

「でも──太陽はどう考えても──」

「疑うのなら、証明してみせよう。君はパイロットだな。なら、わかるはずだ。機体を上昇させるにつれ、上空の気温は低くなっていく」

頷いた。

「なぜだ? 君は飛行機で、陽に近づいているわけだ。太陽が熱いのなら、暑くなっていくはずだ。なのにどうして寒くなるんだ。話が逆ではないか」
 
衝撃! まさに衝撃だった。驚愕が彼を打ちのめした。今まで信じていたものが、ガラガラと崩れ落ちていく瞬間だった。

やがて水が染み込むように、彼の中に深い理解が広がっていった。そうか。そういうことだったのか。なぜ気づかなかったのだ。

   *

どうだい、まさに衝撃だねえ。話がまだ始まっていないうちにコレなのだ。おてんと様が熱いのは、ユダヤ人の陰謀かい。

〈太陽は熱くない説〉というのは、あの円盤のジョージ・アダムスキーが最初に言い出したこととして一部でなぜか信じられてる話だね。例の形の円盤に乗って、水星だの金星だのに行ってきた。『そんなとこ熱くて行けるか』という批判に対して、アダムスキーが言った言葉が『いや、太陽は熱くない』──にしても、ナチスのユダヤ迫害が既に始まっていた時代に、なんでドイツと同盟している日本がユダヤに操られるのか。それがまったくよくわからない。

まあもっとも、この作者は『ヒトラーはホロコーストをしていない』なんてことも書いてるが。『確かにナチスは来年秋から本格的なユダヤ排除を行うが(ってお前、なんでそんな先のことを知ってんだ?)、あくまで国外追放や家屋の接収をするだけで殺害なんて命令しない。他国と戦争始めても虐殺なんてするはずがない。すべてはユダヤ中枢にいるシオニストの陰謀であり、ヒトラーもまたユダヤに操られているのだ──』とかなんとか。激しく矛盾しまくっていて頭が痛くなってしまう。この辺りは読んだところで退屈なので適当に読み飛ばすのがいいだろう。



さて、そんなわけだから、思い切って飛ばしていこう。そろそろこの小説の、肝心のストーリーを紹介してゆかねばならない。

主人公は島に到着。日本軍基地に忍び込み、イヤハートを発見する。彼女はコンクリートの檻に閉じ込められていた。

が、わずかに目を離した隙に、彼女は檻から姿を消してしまうのだ! 前後の状況から考えて、日本兵に引き出されたとか、自ら脱出したとかではない。煙のようにいなくなってしまうのだ。

檻──すなわち、密室である。そこから忽然と姿を消す。タイトルの『消えたアメリア』には、実は二重の意味が込められているのだ。ひとつは一般に知られている遭難事件。もうひとつは、この檻からの謎の消失。この本は彼女の密室消失の謎を追って展開する謎解きミステリでもあるのだ!

   *

突如、バリバリという音が響いた。振り向くと、鉄格子の向こうで火花が散っているのが見えた。電気がショートして起こすような白い光。

一体何が起きているのだ? ようすはよくわからない。彼は鉄格子に駆け寄った。

と、そのときベルを鳴らすような音がして、それとともにすべては止んだ。

辺りに静けさが戻っている。

彼は檻の中を覗いた。彼女は無事なのか? 何があった、彼女はどこだ?

いない。中はからっぽだ。コンクリートの床があるだけ。彼女の姿はどこにもない。

彼は茫然と立ちすくんだ。檻には鍵が掛けられている。内側からは錠前に手が届きさえしないだろう。ひとりで出られるわけがない。

にもかかわらず、彼女の姿はそこになかった。

   *

とまあ、こんなふうに彼女は消える。謎を解く鍵としては、〈バリバリとした火花〉というのと、〈ベルが鳴るような音〉の二点だろうか。ちなみに、イヤハートの飛行機にはフレッド・ヌーナンという同乗者がいたのだが、この男は不時着の際に死んだことにされちゃっている。

主人公は密室の謎について考える。

   *

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という映画があった。クルマがあのように火花に包まれ、突如として消えてしまう。自動車の形をしたタイムマシンなのだ。

彼女もまた、時の彼方へ消えてしまったのであろうか? 過去へ──あるいは、未来へと去っていってしまったのか?

   *

おい、こら、時の彼方だと? 何を推理しようと自由だけどな。『バック・トゥ──』って、それ、1984年の映画じゃないか。この話の主人公がなんで知っているんだよ。

と思ったら、その後に次のような文章が出てきた。

   *

読者は、まだ作られていない映画について彼が見たように知っているのを不思議に思うかもしれない。

だが、不思議でもなんでもないのだ。今の彼はノストラダムスのようにすべてを見通す力を備えており、過去であれ未来であれわからないことは何もない。五十年後の映画など、彼にとってはなんなく知ることができるのである。

   *

だったら推理なんかしないで、イヤハートがどうして消えたかそれで知ればいいのでは……という気がするが、言ってはいけないことかもしれない。しかしなあ、『読者は思うかもしれない』って、小説でそんな表現使わないでほしいよなあ。

   *