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二丁拳銃のドリー ~掌編集 今月のイラスト~

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 男は左ジャブを矢継早に繰り出す、女はそれを上体の動きでかわすと、一足跳びに後ろに飛びのき、自ら黒いコートに手をかけると右ストレートを繰り出そうとして来た男に投げかけて視界を奪った。
「このアマ!……お?」
 男はつんのめって膝をつきコートを払いのけて振り返ったが、その眼は女に釘付けになった。
 それもそのはず、黒いコートの下から現れたのは星条旗の赤と青を基調に、星とストライプの白をあしらった水着、どう見ても布地を節約しすぎたトップスの胸元からは、真っ白で豊かなバストが零れ落ちんばかり、ボトムスと言えば、秘密の部分をかろうじて覆っている三角の布だけ、そしてそれば青い紐でそこに留まっているだけ。

「あたしを甘く見るんじゃないよ、二丁拳銃のドリーとはあたしのことさ!」

 膝をついている男と同様、あっけにとられたように目を奪われていた盗賊共だが、その名を聴いてたじろいだ。

『二丁拳銃のドリー』
 目にもとまらぬ早撃ち、そして正確に獲物を撃ち抜くことで知られる賞金稼ぎ。
 そしてドリーにはもう一つの武器があった、今、この瞬間、盗賊共はそれを知った。
 男なら誰でも一瞬目を奪われるその肢体、名だたる悪党もその隙を衝かれて賞金の札束にその姿を変えていたのだ。
 
「二丁拳銃のドリーか……その名を聴いちゃ生け捕りは諦める他はねぇな……野郎ども、構うこたねぇ、殺っちまえ!」
 ボスの一声で盗賊共は一斉に拳銃を抜き、ライフルを構えた。
『Bang! Bang!』
 ドリーは目にもとまらぬ早撃ちで手近の二人に引鉄を引く間を与えずに撃ち抜いた。
『Bang!』
 そして振り返りもせずに肩越しに拳銃を構えると、後ろで拳銃を構えたパンチ男の額に真っ赤な刺青を入れ、素早く後ろに回って男の身体を盾にする。
『Bang! Bang!』
『Bang! Bang!』
 仲間二人の銃弾に、額に刺青男の身体は踊ったが、二人は二発目を撃つことはなかった、刺青男の肩越しにドリーが放った銃弾が二人に死の舞を踊らせたのだ。
 すると、舞っていた男たちの陰からライフルを構えた男二人の姿がドリーの眼に飛び込んで来る、ライフルの弾丸は人間の盾では防ぎきれない、楽々貫通して隠れている者の身体をも撃ち抜く威力を持っている。
『Bang! Bang!』
 ドリーは盾にしていた男の死体を突き飛ばし、素早く床に転がると仰向けのまま続けざまに二発発射し、ライフル男たちそれぞれの左胸を撃ち抜いた。
「こいつ!」
「よくもやりやがったな!」
 あっという間に7人の仲間を撃ち殺された残党は怒りに震えながら突進しようとするが、さすがにボスは冷静だった。
「囲め!」

『Bang!』
『Bang!』
『Bang!』
 その号令ひとつで残りの4人は二手に分かれてドリーを囲もうとするが、ドリーはボスめがけて撃つ、が、さすがにボス、ドリーの動きを読んで弾をかわすと早撃ちで応戦して来た、ドリーはとっさに身をかがめてその銃弾をやり過ごしてもう一発撃ったが、二発目は手元が狂って外してしまった。
 だが、その二発を撃ったおかげで、ボスの隣に居た、幹部と思しき男はその場を離れられなくなり、離れていた二人だけがドリーの両側に回り込んで来た。
『Bang! Bang!』
 二人はドリーの両脇から同時に発射した、しかしドリーはそのタイミングを計っていた。
「ぐあっ!」
「ぐえっ!」
 ドリーは二人が引鉄を引く瞬間、果敢に前へ飛び出して行き、二人は同士撃ちとなってその場に崩れ落ちた。
「あっ!」
 ボスの両側を固めた幹部だったが、同士撃ちを目の当たりにして一瞬の隙が生じた、それを見逃すドリーではない、たちまちドリーの銃弾の餌食となって吹っ飛んだ。
 だが、ボスは手下が次々とやられて行くこの状況にも眉一つ動かさず、隙を見せるようなことはない。
 残るはボスとドリーの一騎打ち……と思われたが、ドリーは背後に殺気を感じた。
 最初に股間を蹴り上げられていた男が立ち上がって銃を構えていたのだ。
『Bang!』
 ドリーは振り返りざまに股間男の額を撃ち抜いたが、その瞬間、ボスに対して隙を見せてしまう羽目に陥った。
『Bang!』
 ボスはその瞬間を衝いて撃って来た。
「ああっ!」
 ドリーは右肩を撃ち抜かれながらボスめがけて一発撃ったが、その銃弾は虚しく棚の酒瓶を砕いただけだった。

「勝負有ったな」
 ボスがせせら笑う。

「いかに二丁拳銃と言っても6連発銃が二丁だ、お前はもう12発撃っただろう? 俺は一丁しか下げていないが、弾はまだたっぷりある……これでジ・エンドだ」
 ドリーは撃たれた右肩からの出血を押さえながらじりじりと下がりながら、倒れた盗賊の拳銃を拾えないかとブーツの先で探る……が……。
「無駄だ」
 ボスは冷酷に言い放つ。
 その言葉通りボスは隙など見せない、ドリーが跳びかかれない距離を保ちながら、膝をついたままじりじりと下がるドリーの額をロックオンしたまま、絶対に外さないだろう距離を保ってじりじりと前に出て来る。
「手下を全て失ったのは痛いが、このご時世だ、代わりになる食い詰め者はいくらでもいる、だが、二丁拳銃のドリーよ、お前はここで終わりだ。

『Bang!』

 店に響き渡る銃声……思わず観念して固く目を閉じたドリーだったが、前のめりに倒れて来たのはボスの方だった、そしてボスの身体の陰に隠れていたのはあの店主兼バーテン、その右手にはまだ煙を上げている銃が握られていた。

「助かった……」
 思わす安堵のため息を漏らすドリーだったが、店主は微笑みを浮かべて銃をカウンターの下へと戻した。
「助かったのはこちらだよ、俺だけじゃなくこの街のみんなだ、あんたのおかげでもう盗賊共を怖れずに済む、イビルがいなくなったからね……それはそうと、その肩の傷はすぐに医者に診せた方が良い」
 店主はそう言って壊れかけのスイングドアを開けて、『誰か、ドクターを呼んで来てくれ、すぐにだ』と叫んだ。
「ありがとう……あ~あ、でも賞金を稼ぎ損なっちゃったな、イビルを倒せば当分遊んで暮らせたのにね」
「いや、イビルを倒したのは、ドリー、あんただったろう?」
「え?」
「11人の手下を全部倒して、しかもイビルの注意をその一身に集めていたんだ、あんなに隙だらけのイビルなら誰だって倒せたさ、ドリー、君の手柄、賞金は君の物だよ」
 店主に抱き起され、その腕の中で微笑むドリー、そして見つめ合う二人……。

 緞帳が降り始め、固唾を飲んで見守っていた観客からは割れんばかりの拍手が、舞台の真ん中で抱き合う二人に注がれた。

「はい、お疲れさん、ドリー、いい芝居だったぜ」
「ありがとう、お客さんも喜んでくれたみたいね」

 パリ9区リシェ通り32番地。
 ミュージックホール『フォリー・ベルジュール』は今日も満席だった。
 劇中でドリーを演じていたのはアメリカ人女優・メアリー・ウィルソン。
 アメリカのレビュー界で人気を博し、ここパリに招かれたのだ。