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錯視の盲点

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「で、管理人の方何んだけど、隣の住人にペットがいることを新宮氏に嗅ぎつかれた。それで彼に脅迫されていたのかも知れません。彼はそんな陳腐な犯罪に手を染める運命の星に生まれてきたような人のようですね。しょせんは大したことはできないけど、悪さ程度の犯罪にはあちこちで手を染める。そんな新宮氏に対して、脅迫されていたのを誰にも言わないように頼みに行ったのか、それともお金でも渡しに行ったのか、入ってみると、異様な光景を目にする。もし、殺されているのであれば、幸い、誰がやったか分からないけど、ありがたいことだと思った。でも、ひょっとすると、その時まだ彼は死んでいなかったのではないでしょうか? 管理人が入ってきたことで、自分が殺されかけたのを思い出した。そして管理人を睨みつけたのかも知れない。管理人はすでにこの世の顔とは思えないほどの被害者の顔を見て。恐ろしくなった。このままこの男を抹殺してしまわないと自分が危ないと思い込んだ。そこでナイフでとどめを刺したのではないかと思います。そして、どうしていいか分からないところに樋口が現れた。そして一緒に第一発見者になったんです。お互いに相手が殺したことを知らずにですね。そこで死体を初めて発見したという芝居をした二人ですが、樋口の方は驚いたでしょうね。何しろ胸にはナイフが刺さっているわけですから。しかも、かなりの鮮血。きっとナイフでやったやつは縛られているのをいいことに後ろに回り込んで刺したんでしょう。そうじゃなければ、かなりの返り血を浴びるはずなので、後ろからであれば、少々浴びても、洗濯で何とかなるかも?」
「それにしても、どうして管理人はそんなに驚いたんでしょうね」
「被害者の顔が恐ろしかったんだよ。君はサッチャー錯視という言葉を知っているかい?」
「ええ、これでも心理学を専攻して今叱らね」
 と言って鎌倉探偵を見返すと、
「ああ、なるほど、そういうことですね」
 と言って、鎌倉探偵を見た。
「ええ、上下逆さまに反転させることにおいて、曲しh的特徴の変化の検出が困難になるということですね。つまりは逆さづりになっている死体の顔には恐ろしさが倍増する。しかもそれが蘇生したとなるとそれも無理もないことです。今にも自分が殺されるという錯覚に陥って、どうしようもなくなったんでしょうね。特に彼には被害者に対して後ろめたさと恨みもある、いろいろな心境が交錯しての犯罪です。ただ、これも動機としてはかなり薄い。衝動的だという方が正解に近いでしょうね。こうして二つの殺人の動機として薄い犯罪が完成した。もう助かる道はお互いに協力し合うしかないと思った二人です。当然二人はお互い知らない相手のように装って、自分たちはただの第一発見者であるということを知らしめるしか手はないんですよ」
 なるほど」
「つまり、これはまったく違った非常にあいまいな殺人動機が、同時並行して存在していたということになるんでしょうね。もっとも、お互いに犯罪を隠蔽しようなどと思っていないので、すぐに証拠が固まって、警察もそのことに気づくでしょうが、ひょっとすると案外、殺害した二人の方も、それほど罪の意識はないかも知れません。二人とも平然としているでしょう? それがこの事件の特異性を表しているような気がしませんか?」
 と鎌倉探偵がいうと、
「鎌倉さんは、これを警察には?」
 という児玉氏に向かってニッコリ笑って、
「言おうとは思いません。しょせん推理の域を出ませんし、警察でもそのうちに分かることです。私のあなたに対しての依頼はここで終了ですね」
「ありがとうございました」
 と言って、児玉氏は事務所を後にした。
 事件の様相は、ほぼ鎌倉探偵の看破した通りだった。二人は捕まったが、どうにも二人とも犯人らしくないと言って、
「まるで暖簾に腕押しのようだ」
 と、苦笑いを門倉刑事はしていたという。
 児玉氏の方では、作品が発表されて、結構売れているということだが、実はその裏で樋口氏の作曲した作品が極秘に販売されているという。そしてネットでウワサになってることとして、児玉氏と樋口氏の作品がまったく同じ演奏時間で、曲調も何となく似ているという。ただ、次第に似ていないように感じてくるので錯覚だったと思うのだが、それこそが最適な演奏時間という魔力による仕業であることを知っている者など、誰もいないことだろう……。

                  (  完  )



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作品名:錯視の盲点 作家名:森本晃次