Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚
「わぁー」
と感嘆の声をあげながら、リルが空竜へと駆け寄る。
「くーちゃん、大きくなったねーっ」
軽く顔をあげた程度では見上げ切れないほどに、空竜の頭は遥か上空にあった。
「なるほど……体の大きさが、私達の百六十倍……」
久居が、納得しながらも、そのスケールの大きさに開いた口を閉じ切れないまま歩み寄る。
「ある程度サイズがないと速度も出ないしな」
とクザンが説明しながら、二人を空竜に乗るよう促した。
「わぁーっ、くーちゃんふかふか、あったかーいっ」
大きくなったというのに、空竜の体はびっしりと毛で覆われていて、久居は改めてその仕組みを不思議に思う。
自分たちの背丈よりも長い毛の中を、二人は掻き分けながら尻尾から首の付け根あたりまで登った。
「高速で飛んでる最中は顔出すなよー。死ぬぞー」
下から声をかけられて、久居は下を覗き込むも、あまりの高さに下で見送る二人の姿は米粒ほどにも見えない。
「は……はい」
久居は目眩を覚えそうなほどの高さにじわりと手に汗を握った。
今までも、三人で空竜に乗って移動する事は多々あったが、こんなに巨大になった空竜に乗るのは初めてだ。
この大きさになるまで、時間も随分とかかっていた。
二人が無事に乗ったと判断したのか、空竜がその両翼をバサリと振る。
「わぷっ」
ゴウっと巻き起こる風に煽られて、姿勢を崩したリルが毛の海に沈んだ。
羽音を響かせて舞い上がる空竜の勢いに、風を切る音が轟々と鳴り響く。
「じーさんとカロッサによろしくなーっ!! 気をつけて行けよー!!」
下から叫ぶクザンに、久居は心で応える。
もう、この高さからでは久居には小屋の輪郭を捉えるのがやっとだった。
(クザン様……今までお世話になりました。リリー様……菰野様をお願いいたします)
小屋の中の菰野へ、その無事を祈りながら、久居は進行方向へと視線を移した。
(行ってまいります!!)
そこへ、ようやく毛の海から這い出してきたリルが顔を出した。
「まだ、おとーさんとおかーさん見えるかなー?」
空竜の首の辺りから身を乗り出したリルが、ずるりと手を滑らせて、毛の流れに沿って外へと飛び出す。
「あっ」
「リル!!」
久居は、何とかギリギリで服の端を掴むと、必死で引き摺り上げる。
「わー、びっくりしたー」
ドキドキしている心臓を、両手で押さえてリルが呟いている。
そんなリルの倍以上の速度で早鐘を打つ胸を押さえながら、久居が掠れた声で零した。
「寿命が……縮まりました……」
クザンは、二人の様子を脅威の視力で確認しながら、心で久居に詫びを入れる。
(久居、迷惑かけるな……。ホント、リルを頼む……)
クザンの引き攣った顔に、人間とそう変わらない視力のリリーが
「どうかしたの?」
と尋ねた。
作品名:Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都