小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚

INDEX|4ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 


 眩しい朝日の中を、リリーは小屋へ向かっていた。

「リリー様、おはようございます」
 小屋の前で、朝食に使った火の始末をしていた久居がリリーに気付き挨拶をする。
「おはよう、リルは中かしら?」
「はい。あ、それは昨夜の……」
 久居の言葉に笑みを返して、リリーは扉を開けると、声をかけた。
「リル」
 顔を洗っていたらしいリルが、振り返る。
 そこへ、リリーがガポッと鍋でできた帽子を被せた。
「わ」
 鍋は、その外側を爽やかな青で塗られていた。
 フチは白で塗られ、その下に白い布が顔以外をぐるりと覆い、顔の両脇には捲れ防止に赤い雫型の石が下がっていた。
「「おおー」」
 と、男性陣から声が上がる。
「うん、上出来だわ」
 リリーの満足気な言葉に、クザンも同意する。
「これならバッチリだな」
 確かに、それは一見鍋には見えない、立派な帽子だった。
「その赤い石は……」
 久居が帽子に使われている赤い石と、リリーの耳元を見比べる。
「ええ、私の封印石を使ったの」
 彼女の耳には、いつも下がっていた赤い石が無かった。
「これで、帽子をかぶっている間は、普段よりさらに力が抑えられるわ」
 リリーはどこか懐かしそうに、リルの肩の上で揺れる赤い石を見つめている。
「私はもう、力の制御が出来るから、その石はお守りみたいなものだったのよ」
 彼女がいつからその石をつけていたのかは久居には分からなかったが、その言葉から推測するに、彼女がリルと同じくらいの頃から、身に付けていたのかも知れない。
 彼女の中にはその石との思い出があるのだろう。
「わーいわーいっ、おかーさんのおさがりーっ」
 リルは、それをわからないまま、嬉しそうにはしゃいでいた。
「でもボク全然、力発動できないよ」
「え?」
 リルの言葉に、クザンがギクリと肩を揺らす。
「そうなの……?」
 振り返り尋ねるリリーに、クザンは「すまん……」と謝った。
 その後ろで、久居は昨夜、小屋の隣で術を使っていた間も、結局ずっと熟睡していたリルの事を思う。
 自分達を信頼してくれるのは嬉しい事だったが、それでも、ここから先は二人きりとなる。
 リルにも、もう少し警戒心を持ってほしいと久居は願った。
「クオォォォン」
 小屋の外から鳴き声がする。

 三年前に手紙を届けにきたあの不思議な生き物は、竜と呼ばれるものの一種らしく、皆に空竜と呼ばれていた。
 もふもふした体毛は、ぽかぽかと晴れた春空のような淡い空色で、翼の付け根とたてがみのような部分だけが秋の空のような深い深い青をしている。

 空竜は、不思議なことに体の大きさを自由に変えられるらしく、普段は野うさぎほどの大きさだったが、有事には馬や虎ほどの大きさになり、リル達を乗せて空を飛んでくれた。
 リルは、空竜とすっかり仲良くなり、空竜を「くーちゃん」と呼んでいた。

 空竜の声に「お」とクザンが言う横を、リルは「くーちゃんが呼んでるーっ」と嬉しそうに外へ飛び出した。