小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚

INDEX|37ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 


「腕輪ってのは、これだろう?」
 言葉とともに手渡されたそれを、黒髪の少女……と呼ぶべきか女性と呼ぶべきか、微妙な年齢に見える黒髪の女が受け取る。
 月明かりに、きらりと輝くぽってりとした丸みのある腕輪には、雪の結晶の模様が刻まれていた。
「……間違いない」
 じっとそれを確かめてから、女は懐からずっしりと重みのある袋を出し、腕輪を渡してきた男の手に落とした。
「報酬……」
「ああ」
 受け取った男がその中身を確認しながら、チラリと女を振り返る。
「その腕輪に、こんな価値があるようには見えんがな」
「……」
 長い黒髪を三つ編みに結い、右肩から前へ垂らしている女は、そんな男に視線だけを返す。
 男がそんな風に思ったのは、おそらく相手に力を使われる前に、奪って来れたからだろう。
 しかし、女には、この腕輪の価値を男に伝える気はカケラもなかった。
「……」
 返事の戻りそうにない女を見て、男は思う。
 おかしな奴にはなるべく関わらないのが一番だ。と。
 こんな仕事をするようになってもう随分と経つ男は、経験からそれを分かっていた。
 目の前の女は、ローブで全身を覆っている事を除けば、一見どこにでもいる女の顔をしていた。
 が、少なくとも、こんな額の金をひょいと渡せるような奴は、普通であるはずがない。

 男はそれ以上何を言うでもなく、その場を後にした。

(これで二つ目……)
 女はその背を見送りながら、手の中の腕輪を確かめるように握り直す。
(これを持って帰ったら、きっと父さんが喜ぶ……)
 誰も居ない路地裏で、喜ぶ父を想いそっと微笑む女は、とても純粋で幼い表情をしていた。
(待っていてね、父さん)
 すっかり昇った月を見上げて、黒髪の少女は夜空に微笑んだ。