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Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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「リル君、もうちょっと、こう。力が手の中で回るように向き合わせてみて」
 言いながらカロッサが、両手を向き合わせるリルの手を取り、その角度を整える。
 リルと久居の二人は、制御に関して、基礎のきの字も習っていないに等しい状態だった。

 それでも久居は、カロッサが教える事を全て一度で吸収し、二十分とかからずに力を形として整えられるようになった。

「……すごい……完璧だわ」
 久居の手元を覗き込んで、カロッサが感嘆するように呟いた。
「ありがとうございます」
「この短時間で完全に扱えるなんて、久居君の制御能力はリリーに劣らないわね」
 カロッサだって、そこらの術者に比べれば、制御力には自信があるつもりだった。
 しかし、この青年は資質という点では自分よりも上だろう。
 人間であるということを、一瞬疑いたくなるほどの腕だ。
「けど、攻撃は放出系なのよね?」
「はい」
 久居は変わらぬ様子で、両手の間で上下の尖った六角柱のような形を美しく保つ事に集中している。
 カロッサは、久居の手の中で綺麗に形を保たれている無駄の無い最小限の力の塊を見ながら思う。
 クザンが使うのは、放出系の技ばかりだ。
 制御するとこなんて、量と向きくらいしかないのだから、あれに師事していたのでは、制御らしい制御を知らないと言うのも仕方ないだろう。
「久居君、放出系は向いてないんじゃないかしら」
 カロッサに言われ、久居の手の中で力の結晶がゆらりと形を崩しかける。
 慌てて修復に勤しむ久居に、カロッサはクスっと小さく笑って言う。
「ああいうのはね、力が有り余ってるバカ向きなのよ」
 バカというのが誰を指しているのかは明白だったが、久居がそれに口を挟む事は無かった。
「久居君は制御力があるから、力を成形して扱う方がきっと効率がいいわよ」
 言われて、久居が心の中でそれを繰り返す。
(成形して、扱う……)
 それは、正に、今求めている新たな力に繋がると、久居は感じた。
「盾の応用みたいなものだから、久居君ならきっとすぐ出来るわ」
 ピッと指を立てて明るく励ますようなカロッサに、久居は真摯に答えた。
「はい、やってみます」

(では、もし……)
 と、手の中で力の形を整え直した久居が、それを維持しつつチラリとリルの様子を見る。
 リルは両手を向き合わせて「うぬぬぬぬぬぬ」と唸っていた。
 そんなに肩に力を入れたところで、制御力は上がらないだろうが、リルなりに精一杯やっているのだろう。
 リルはあの時、コートの男へ、力そのものを一切制御する事なく、純粋な高エネルギー体としてぶつけようとしていた。
 それで、あの威力だ。
 それをもし自在に操れるようになった時、一体どれほどの脅威となるのだろうか……。
 久居の理性より、もっと深いところで、本能が久居の背筋を震わせた。

 当のリルは、難しい顔で、まだ手の平同士に熱が伝わる距離を少しずつ広げる練習をしている。

 そんな努力する二人を、カロッサが眩しそうに、けれどどこか苦しげに眺めていた。
(私に、もう少し先が見えたら……)
 カロッサは自身の力不足を、いつだって、歯痒く思う。
(御師匠様(せんせい)のようにうまく導いてあげられるのかな……)
 カロッサは頼りない自身の手を見つめ、決意と共に握り締める。
(私も、もっと頑張ろう!)