Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚
フードの少年は、しばらく黒髪の青年の反応を待っていたが、青年が口を開く様子はない。
(チッ、表情も変わらずか……。まあいい、俺の役目はこいつをここに引き付ける事だからな……)
フードの少年は正直面白くなかったが、こちらも表情を変えないままに青年を見返していた。
ゴオッ! と、不意に強風が広場へ流れ込む。
今日は、こんな突風が吹くような天気ではなかった。
久居が違和感を感じるより早く、目の前の少年が奥歯をギリッと噛み締めた。
(腕輪を使われたか!! あいつらまたしくじりやがって!!)
「くそっ!!」
少年は一言吐き捨てると、姿を消した。
久居は、少年を追うつもりはなかった。
まだ酒は抜けそうにない。こんな状態ではまともに動けないだろう。
けれど、強風はリル達の向かった方向から、感じた事のない力と共に吹き続いている。
(この強い力……。あちらで一体何が……)
久居は、ふらつく頭で、吐き気を堪えつつ、そちらへ向かった。
(リル……無事でいてください……!!)
作品名:Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都