Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚
屋敷の裏庭では、両腕と足を縛られたコートの男が、それを重くもなさそうに小脇に抱えてきたフードの少年によって、地へ転がされたところだった。
少年は、無表情のままその手を振り上げる。
「ま、待て!!」
焦りを浮かべる男へ、少年はその手を振り下ろした。
「俺は何も喋ってな……!!」
ヒュッと風切り音が聞こえた時には、男を縛っていた縄は切られていた。
「あ……」
言葉を失う男に、少年はなるべく低い声で告げる。
「分かってる。二度とこんなヘマするな」
「あ、ああ!」
コートの男は、どこか怯えた様子で逃げるように駆け去った。
ローブの少年は先程のことを思い返す。
二人の会話は、ハッキリ聞こえていた。
あの時、コートの男は、黒髪の青年にすっかりのまれていた。
こんな小物の口、あの青年なら簡単に割れただろう。
何故、すぐそうしなかったのか。
あの青年はこう言っていた。
『私が一人になったのは、これから貴方に対して行う事を、あの二人に見られたくなかったからです』
それがもし本当だとしても、あんなに離れる必要があるだろうか。
少年は、あの青年が張った障壁をもう一度思い浮かべる。
確かに、あれと似た術式をどこかでみたような気がする。
けれど、それがどうしても思い出せない。
(……あの男は、一体何者なんだ……)
少年は、フードの下で赤い瞳を伏せると、苦々しく眉をしかめた。
作品名:Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都