小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Evasion 2巻 和洋折衷『妖』幻想譚

INDEX|17ページ/39ページ|

次のページ前のページ
 


 ドンッ!! と、激しく何かがぶつかる様な音に、リルは音のした方を振り返った。
 リルの目には、夜空に舞う粉塵が見えた。

「……何……? 今の音……」
 クリスの耳にも、その音はかすかに届いたらしく、不安げに顔を上げる。

(久居……)
 リルは、久居が戦闘に入ったことを知った。
「ねえ、今の久居さんが向かって行った方向じゃない?」
「うん……」
 リルは、耳にかかる布を、耳を包むようにした両手でほんの少し広げながら、集中して音を拾う。
「久居さん、何かあったんじゃない!?」
 クリスに問われて、リルは答えた。
「うん……。誰かと戦ってるみたい……」
「え……?」
 クリスの脳裏に、フードとローブの少年の姿が過ぎる。
(まさか……あいつが……)

 ドンッ! ドンッ! と続けて二度の衝撃音に、クリスが駆け出す。
「私達も行かないと……!!」
「だ、ダメだよっ!」
 クリスの手を、リルは必死で捕まえた。
 クリスが驚きの表情で振り返る。
「ここに居ろって言われたときは、そこから動いちゃダメなんだ……」
 リルの胸を、あの日の後悔が埋め尽くす。

 あの日、フリーの声が聞こえて、つい、城に向かってしまった……。
 ここにいると、約束したのに。
 そのせいで、ボクは石を落としてしまった。
 あの石がなければ、あの人は上まで来れなかったのに……。
 フリーも、コモノサマも、あんな事にはならなかったのに……。

 ……あの時、ボクが約束を守っていたら……。


 後悔に沈むリルの様子に、何か訳があることだけは感じつつも、クリスが叫ぶ。
「――っでも! その久居さんが危ないのよ!?」
 クリスの声に、リルは不安を押し込めて答える。
「……大丈夫だよ。ボクは、久居のこと信じてる」
「久居さんが強いのは、私も分かってるけど……」
 クリスは、遠い日の炎を、その熱を思い出しながら続ける。
「あいつは、違うの……」
 あの日、クリスは母の背に庇われて、火の海の中にいた。
 母が対峙していた相手は、ローブを纏いフードを目深に被っていた。
 炎は、その手から際限なく生まれ、全てを焼き尽くした。
「あんなの……あんなのっ、人間じゃないもの!!」
 クリスの、涙まじりの鋭い言葉に、リルがハッとする。

 三人で修行をしていた頃、いつまでも術が使えるようにならないリルに、クザンは言った。
『いいか、リル。久居は強い』
『うんっ』
『けどな、それは「人間にしては強い」って事だぞ?』
『うん?』
『俺や、お前みたいな化け物が出てきてみろ。あいつじゃ太刀打ちできなくなる』
『ボク化け物じゃないよー?』
 首を傾げるリルの頭を、クザンが撫でながら言う。
『その時のために、お前はちゃんと修行しないといけないんだぞ? 分かってんのか?』
『うんっ。ボク頑張るよっ』


 リルは、先ほどまで激しい音が続いていた、今は静かになってしまったその方向を見る。
 薄茶色の瞳には、堪えきれない不安が溢れている。
(久居……)
 音を聞く限り、久居は劣勢のようだった。