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circulation【5話】青い髪

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「僕はボランティアのようなものだよ。昔、こちらの道場の先生にはお世話になった事があるんだ。その恩返しかな」
 無償でお手伝い……をしているのだとしたら、レクトさんは今どうやって生活をしているんだろう。
 ふと、レクトさんの服装が冒険者然としているのに気付く。
 さすがに甲冑こそ着ていないものの、簡単な防具にマント。
 この町にずっと住んでいて、ここで師範をするだけなら、そんなものは必要ないだろう。
 彼は、また冒険者に戻っているのか……。

 黙って紅茶をかき混ぜていたデュナが、顔を上げてレクトさんを見る。
「それで、リディアはどうして死んだの?」
 責めるでもなく、悲しむでもなく、ただ質問として問いかける声。
 それを、デュナがどんな気持ちで口にしたのかは私達には分からなかった。
「リディアは、風邪をこじらせてね。お腹の子と一緒に……。僕は、生涯守ると誓った彼女を、こんなにあっけなく失ってしまった。……情けない話だよ」
 答えるレクトさんの口調も、今までと変わらない淡々としたものに聞こえる。
 ただ、苦笑を交えて話すレクトさんのその瞳には、強い後悔と自責の念が見え隠れしていた。
「そう……」
 デュナがぽつりと返事をする。
 砂糖もミルクも入れていない紅茶を混ぜていたスプーンを静かに置くと、両手の指を組んで口元に当てて軽く俯く。
 前髪と眼鏡で目元が、組んだ手で口元が隠れたデュナの表情は完全に読み取れなくなった。
「あのリディアが、手紙のひとつも寄越さないなんて、おかしいとは思っていたのよ。今まで、気付かなくてごめんなさいね……」
 あの頃、デュナとリディアさんはとても仲が良かった。
 パーティーに二人だけの女の子だったこともあったが、それ以上に二人はとても気の合う親友のようだった。
 そのままの姿勢で話すデュナに、
「いや、僕こそ、皆に知らせなきゃいけなかったのに……すまないね」
 とレクトさんが悲しい瞳で苦笑した。

 あの本は、道場の持ち主が私達の村の村長から借りる本だそうで、報酬は、それを預かっていたらしいレクトさんから貰い受けることが出来た。

「三千ピースねぇ……」
 デュナが明らかに不服そうな顔をして通りを歩いている。
 レクトさんが道場の主から預かっていたという封筒にはそれだけしか入っていなかった。
「一人きりの冒険者ならともかく、四人で三千は厳しいわよ……」
 まあ、正確にはフォルテはただの付き添いで、冒険者自体は三人なわけだが。
「やっぱり明日出直して、直接道場経営者に交渉すればよかったかしらね」
 三千ピースを受け取った今、言ってもしょうがない事を、いまだに納得できないデュナがブツブツと呟きながら歩く。
 その後ろをいつものように私とフォルテが手を繋いで歩いていた。

 やはりデュナのお財布は相当ピンチだったようで、結局は目の前の現金に負けてしまったようだ。
 レクトさんはそんなデュナを見て「変わらないなぁ」と笑っていた。
 時間はお昼に近付いている。

 お昼と夜と、明日の朝ご飯の材料を買って、ついでにりんご飴屋さんにもちょこっと顔を出して……。
 屋台には、昨日は居なかった親父さんも居て、深々と感謝されてしまう。
 今日もまた、たっぷり貰ってしまったりんご飴に、珍しくフォルテが、私のマントの後ろからではあったけれど、飴がとっても美味しかったとお姉さんにお礼を言っていた。

 それにしても、二日連続でりんご飴はきついなぁ。
 飴をはがして、中身だけ朝のデザートにでもしようかな?
 買うつもりだったさくらんぼは、また明日にすることにして、私達は宿へと戻った。