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circulation【5話】青い髪

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「無理だよ、ねーちゃん……」
「っ――」
 フォルテの白い光に微かに照らされるデュナの横顔。
 眉を寄せ、唇を強く噛み締めるその表情は、今までに見た事が無いほど感情を露わにしていた。
「フォルテ、フォルテもういいよ」
 スカイが優しく語り掛ける。その声は酷く悲しい響きで聞こえた。
「無駄よ……その子はきっかけではあっても……何一つ制御するすべを持っていないわ」
 若干落ち着いてきた振動の中で、デュナが途切れ途切れに呟く。

 …………デュナの精神はまだあるのだろうか。
 二本目の回復剤を飲んでから、一体何回魔法を使った……?
 どうしようもなく嫌な予感が胸を過ぎる。
 ……まさかもう尽きて……――。

 精霊を使役する為に代償として使われる精神力。
 これが尽きればその時点で強制的に精霊との契約は解消となる。
 ただ例外として、精神力が尽きた時、術者がある申請をすれば、そのまま契約を引き継ぐ事が可能だった。
 ――自身の命を、精神力の代わりに消費するという申請をすれば。

 ザァっと自分から血の気が引いてゆくのが分かる。
 小さな私を力強く抱きしめていた母の腕の感触が蘇る。

 精霊に悪気が無いのは分かっている。
 私達が自ら申請しない限り、命を取る事が無いのも知っている。
 それでも、私は心のどこかで精霊が憎いのかもしれない。
 母さんの命を食べ尽くしてしまった精霊が……。
「ねーちゃん、回復剤飲むなら出そうか?」
 スカイの声にハッとなる。
 そうだ。あの時とは状況が違う。
 今は、障壁の中の私もスカイも動けるし、回復剤だってある。
「無理」
 簡潔に答えるデュナ。
 ううん、無理でも何でも飲んでもらうしかない!!

 狭い障壁の中で、デュナの白衣ににじり寄った時、僅かな余韻を残して、揺れがおさまった。
 フォルテに宿っていた光が失われると、辺りは完全な暗闇となる。
 ふいに、私達を包んでいた閉塞感が無くなる。
 ドサッと何かが倒れた音と、スカイの潰れた声がした。
 見上げた頭上から、微かに月の光が差し込んでいることに気付く。
 地上まで貫通しちゃったところがあるんだ……。

 これなら、光の精霊も呼べるだろう。
 慣れた手順でロッドに小さな光を灯すと、隣では案の定スカイがデュナの下敷きになっていた。
 一見情けない事にはなっているが、傷だらけの体でデュナを支えようとした結果なのだろう。
 スカイの名誉の為にもそう思うことにして、ロッドをかざし、改めて辺りを見回す。

 埃っぽさが漂う室内には、また血の臭いも充満していた。