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circulation【5話】青い髪

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 なにやら怒りの篭った声。
 そういえば迷惑してるって言ってたんだっけ。
 間近で聞こえた、ひときわ大きな呼吸の音。
 デュナが僅かに震える右手を、遠ざかるフォルテに伸ばそうとしたとき。
 ドンッと強い衝撃が体に走る。
 足が地面から離れる。
 私は、デュナもろとも後方へと吹っ飛ばされていた。

 そう広くない路地を真っ直ぐに吹き飛んで、肩から地面に叩き付けられる。
 そのまま、砂利混じりの土に思い切り背中をこすりながら止まる。
 分厚いマントのおかげで、私自身への衝撃はたいした物ではなかったが、私と一緒に薙ぎ倒されたデュナの薄い白衣は地面との摩擦であちこち擦り切れていた。
「ねーちゃんっ! ラズっ!」
 スカイの叫び声が遠くから響く。
 スカイは……そうだ、フォルテを追おうとしていたはずだ……。
 慌てて飛び起きると声を張り上げる。
「大丈夫だから、フォルテを!!」
 それを聞いて、スカイがくるりと背を向けて駆け出す。
「ねーちゃんを頼む!」
「うん!」
 気をつけて……。とその後姿に祈り……そして気付く。

 ローブの男の姿がないことに。

 確か、デュナが魔法を使おうとしたあの瞬間、紅く燃える剣をデュナの頭上に見た。
 あの時、私達に一瞬で間合いをつめてデュナを斬った男は、その後どこに行ったんだろう。
 辺りを見回せど、その痕跡はどこにも残っていない。

 …………デュナを斬った男……?

 じゃあ、デュナは、その男に斬られて…………どうなった?

 視界の端に僅かに入るその白衣の肩は、いまだにピクリともしなかった。

 急いで傷を確認しないといけない。すぐに治癒に取り掛からなくては……。
 そう頭では分かっているのに、すぐ足元で倒れているデュナに視線を落とすのが怖い。
 無意識のうちに、半歩ほど後退った足が、ピチャッと微かな音を立てて、水溜りのような物に触れる。
 少し離れた場所では、まだ逃げようとする覆面の男達と、それを捕まえようとする盗賊ギルドの人達が攻防を繰り広げていたが、その僅かな水音は、私の耳に不気味なほど確かに届いた。

 じりじりと、じれったいほどにゆっくり視線を落とす。
 こちらに背を向けるようにして横たわっているデュナ。
 その周囲に音も無く広がり続ける真っ赤な水溜り。

「あ……」
 こんなに大量の出血……。
 ……まさか、デュナはもう……。

 胸に浮かんでくる言葉を必死でかき消して、デュナの正面に回る。
 あからさまに青ざめた顔、そこへかかる眼鏡には、一筋のヒビが入っていた。
 傍に屈もうとするものの、ガクガクと震える足が言う事を聞いてくれない。

 傷口を調べて、一刻も早く治癒を……!!

 どうにか、その場に崩折れるようにしてデュナの傍らへ膝をつく。
 赤く染まった白衣をそうっと剥がして、血溜まりの発生源と思われる横腹の辺りをグローブを外した手で探る。
 ドロッとした血の感触と、その下にあるデュナのなめらかな肌。
 数度、指の腹でまさぐるも、相当深い傷であろうにもかかわらずその傷口を見つけられない。
 ココじゃないとしたらどこだろう……。手を離そうとした瞬間。
 指先に鋭い痛みを感じる。
「いっ……」
 デュナの服の裾で血まみれの指を拭うと、人差し指の先が斜めに切れていた。
 何で切れたんだろう……。ガラス……?
 デュナの持ってた薬品が入ってたのかな。
 それが、ここで割れているのだとしたら、中身はどうなったんだろう。
 デュナの持っているものはたいがい体に悪いものばかりだ。
 水の魔法がうまく使えれば、一気に洗い流せるんだろうけど……。
 やるだけやってみようかなぁ……。

 心で話しかける。「精霊さん達にオーダーお願いします」
 どうにも苦手な水のイメージを、なるべく小さく小さくまとめてみる。
 これで、うっかり激流を起こしてデュナにダメージを与えては元も子もない。
「私の心と引き換えに、ほんの……ほんの少しの水を……」
 しかめ面で必死に水のイメージと格闘していると、後ろから唐突に声を掛けられる。
「そちらがスカイ君のお姉さんかな? 大丈夫かい?」
「うわー……。こりゃキツイな、しばらく臭いが取れないぞ」
「いい匂いじゃないか」
 数人の男性の話し声。
 私がもたもたしているうちに、いつのまにか向こうは片が付いたらしい。
 え、ええと、まず精霊に発注を一時停止してもらって、返事を……。
 と、ぎこちなく振り返ったとき、私の構えていたロッドから、水流が発生した。
「あ」
 一時停止に失敗した魔法は、楽しそうに踊る水の精霊とともに、デュナのわき腹辺りからその頭のてっぺんまでをぐるぐると水洗いして消えた。

「おお、綺麗になったな」
 後ろから、褒めてるんだか、貶してるんだか判断の出来ない声が上がる。
 元々おへそが全開の、デュナの短いキャミソールが水流で胸元までめくれ上がったのを慌てて戻す。
「あー……もう少しだったのに……残念だ」
 ため息混じりのガックリした声に、こちらの力が抜ける。
 残念がらないで下さい。
 デュナは大怪我してるって言うのに……。
 と眺める、デュナの体には傷ひとつ付いていない。
「…………あれ?」
 首を傾げる私に、はじめに話しかけてきた、真面目な印象の男性が優しく声をかける。
「お嬢さん、スカイ君のお姉さんは剣を受けていないよ。安心したらいい」
「え?」
 そこでやっと振り返る。
 背後に立つ男は三人。

 真面目で誠実そうな印象の、褐色の肌をした男性。
 がっしりした体格に、短く刈り上げた頭が、どうにも盗賊らしさを感じさせないが、ギルドバッジを胸に光らせているところを見ると、盗賊ギルドの管理関係者のようだ。
 温かい瞳で、にこやかにこちらを見つめている。

 その隣には、なんだかへらへらとした軽い印象の男性。
 細くて引き締まった体に、長い髪を後ろで細く括っている。
 三人の中では一番背が高いようだが、猫背がそれを小さく見せていた。

 最後の一人は、ぼんやりした雰囲気の中肉中背の男性。
 穏やかに微笑むとらえどころのない表情は、元からなのかそうじゃないのか分からなかった。

「あー、なるほどね。このお嬢ちゃんはその子が血まみれになったと思ってたわけか」
 猫背の男が楽しそうに笑う。
「笑ったら悪いだろ」
 ぼんやりした男がそれを諌めるも、口調に抑揚が無く、本当はどう思っているのか分からないのだが……。
「ここに飛び散っていたのはピコリーだよ、スカイ君のお姉さんが持っていたんだね」
 どうして持っていたのかはわからないけれど。と付け足して、真面目そうな男性が私の脇に屈んだ。
「魔法を使いすぎたのかな? 大分消耗しているね。とりあえず盗賊ギルドに運んでもいいかな?」
 デュナの額に手を当てて顔色を見てから、
 真面目そうな男性がデュナを抱えようとする。
「は、はい……お願いします」
 まだ上手く回らない頭で返事をする。
 ピコリーってなんだろう。聞いたことのない名前だけど……。
「あっ俺運ぶ!!」
 慌てて挙手した猫背の男を
「お前はダメだ」
 と、真面目そうな男性が一蹴する。
「なんだよケチ」