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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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 その日の早朝は、妖精の村の外れでも、フリーが一人そっとカゴの回収を試みていた。
(リルが寝てるうちに……)
 しかし、フリーが精一杯静かに鉄製の門を開けても、その錆びついた音に、耳の良いリルは反応した。
 バタンと二階の窓が開く音にフリーは身を強張らせる。
「フリ〜? どこ行くの?」
(ぐっすり寝てたと思ったのに……)
 が、振り返ったそこには、窓から顔を覗かせたまま二度寝を始めるリルの姿があった。
「ボクも行くぅ……」
 寝言なのかそうじゃないのかイマイチ判断がつかない言葉に、フリーが苛立ちを滲ませた時、背後から別の声がかかった。
「あら?」
 それは、フリーが最も見つかりたくない相手だった。
「あらあら、フリーは早起きさんねー。 こんな時間からどこへ行くの?」
(お母さんに見つかったよっ! リルのせいだっっ)
 心の中で思い切り弟のせいにしつつ、フリーは何食わぬ顔を装って振り返る。
「え〜〜〜っと、早く目が覚めちゃったから、朝ご飯作るのお手伝いしようかなーって」
 えへ。っと誤魔化すように笑って見せると、母もにっこりと微笑んだ。
 朝食用にか、いくつかの野菜を抱えてはいたが、リルとフリーの母親は朝の光がよく似合う、清廉な空気を纏った美しい女性だった。
 フリーと同じ長く垂れたような耳に、細く長く空へと伸びる触覚が二本。
 背には朝日を浴びて七色に輝く透き通る羽根を持っている。
 フリーよりもずっと淡く透き通るような金髪を膝あたりまで伸ばし、下のあたりを大きなリボンでひとつにまとめていた。
「あらあら、フリーは本当に口がうまいわねぇ……」
 ビシッと、フリーが笑顔のままで固まる。
(それは、どういう……)
「じゃあ、お言葉に甘えて、手伝ってもらっちゃおうかしら」
 るんるんと機嫌よく母は告げて歩き出す。
「えーと……おかーさん?」
 フリーはその後に続いた。

 一時間後。
「おはよー……。いいにおいがするー……」
 リルがいつも通りの起床時間に、眠い目を擦りながらも一階に顔を出すと、そこにはテーブルいっぱいの料理が並んでいた。
「わぁー、すごーいっ。朝からご馳走だー」
「何かいい事あったの?」と不思議そうなリルに、母は満面の笑みで答える。
「今日はフリーがたくさん手伝ってくれたから、お母さん頑張っちゃった♪」
 しかし、そのフリーは、食卓の向こうでぐったりとしゃがみ込んでいる。
「あれ? フリー、なんだか元気ない……?」
 リルの言葉に、フリーの額に青筋が浮かんだ。
「あんたのせいでしょーーーーっ!!!」
 姉に拳骨で両こめかみをぐりぐりと捻られながら、リルが『なんで!?』という顔をしている。
「こらこら、八つ当たりしないの」
 母はそんな姉弟を見て、苦笑しながら嗜めた。