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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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 菰野は母の墓前に花を供えると、目を閉じ、手を合わせていた。
 母の墓は城から遠い、奥まったところにあったものの、いつ来ても綺麗に手入れがされていた。
 それは、時が経った今もまだ、わざわざこの場所までこの墓を整えるために通う者が途切れていないということだった。

 本来なら、皇の姉にあたる母は、もっと城の近くで、丁重に弔われても良いはずだ。
 それが、死因のためこんな人目につかないようなところに、そっと葬られている事に、菰野は少なからず不満もあったが、今回ばかりは感謝するしかない。

「母様……。私もようやく一人前になれました。これもみな、譲叔父様や久居……。そして、見守ってくださる母様のおかげです……」
 そこまで告げて、菰野の心に置いてきてしまった久居が過ぎる。
「あ、久居は置いてきてしまいましたが、元気にしていますよ。今度は二人で来ますね」
 菰野は、墓の奥、どこまでも広がる森と山を見上げる。
「今日は、これから母様が妖精を見たと仰っていた山へ入ってみようと思うのです……」
 栗色の瞳に、期待と不安が混ざり合い、静かに揺らめく。
(母様は、勧めてくださるでしょうか。それとも、止められてしまうのでしょうか……)
 眼裏には、倒れた母の赤く染まった指先が鮮明に蘇っていた。
 それなのに、菰野はそれでも、それをただ怖がることができなかった。

「私には、どうしてか……。母様が妖精に殺されたとは思えないのです……」

 ぽつりと零した菰野の本音は、誰に聞かれることもなく、森の中に消えた。