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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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二話『接触』



 キュッと首元に紋の入った球を結んだ菰野(こもの)が、ようやく真っ直ぐ止まったそれを満足そうに見下ろした。
「これでよし」
 そこへコンコンとノックの音がして、久居(ひさい)と呼ばれていた青年従者が顔を出す。
「菰野様、そろそろ――……」
「あ、今日は俺一人で行く」
 主人の言葉に、久居は耳を疑った。
「……そ、それは一体どう……」
 まさか昨日馬車に投げ込んだ事を恨んでいるのだろうか、などと青ざめながら久居が尋ねると、菰野はエッヘンと胸を張って答えた。
「一人前になった姿を、母様にお見せするんだからな」
 その言葉に、久居は細く息を吐きながら、胸を撫で下ろす。
「よ、良いお心掛けで……。さぞ加野様もお喜びになるでしょう」
 そんな久居の横を通り抜けながら、菰野は「じゃ、行ってくる」と告げる。
「行ってらっ……」と答えかけ、久居は慌てて振り返る。
「お待ちください! お一人では危険です!! 私もお供いたします」
 それとこれとは話が別だ。とばかりに主人を引き止める従者に、菰野は笑って答える。
「大袈裟だなぁ……。城内くらい一人で歩いたっていいだろう」
「城内……?」
 言われて久居が一瞬怪訝そうな顔をする。
 加野の墓があるのは、城の敷地内とは言え、城からかなり外れた林の中だった。
「どこまで城内ですか。山全部ですか?」
 そっと部屋を出ようとしている菰野の肩を、久居ががっしり掴む。
 菰野は、意を決するように振り返ると、仕方なく奥の手を口にした。
「そうやって久居が甘やかすから、俺がいつまでも自立できないんだぞ」
 衝撃に久居が顔色を変える。
「そ、そんな……まさか……」
 ずる……と、肩にかかる手から力が抜けたのを見計らって、菰野はじわりと後退る。
「私が……菰野様の成長の妨げになっていたなんて……」
 震えるような声で漏れる、小さな小さな呟き。
「菰野様の将来を……第一に考えてきたつもりが……。そのように……思われていた、とは……」
 信じられないというように、震える自分の指先を見つめる青年従者をそっと部屋に残して、菰野は外へ出た。
(久居、ごめん!!)