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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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 葛原の明確な殺意は、離れている菰野へ悪寒として伝わる。
 ぞくぞくと背筋を震わせた主人に、久居は気付いた。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いやちょっと寒気が……」
 答える菰野の頬は先程よりもずっと赤かった。
 熱い息を吐く主人の額に、久居は手を当てる。
「熱が出てきてしまいましたか……」
 菰野の受けた傷の大きさを思えば不思議ではなかったが、久居はどこか不安に思った。
 従者のヒヤリとした手が心地良かったのか、菰野は静かに目を閉じる。
「とにかく横になってください。水を汲んで参ります」
 久居の声に、リルが申し出る。
「あ、ボク家から布団持って来ようか?」
 久居は一瞬迷ったが、熱のある菰野を冷たい草の上で寝かせたくなくて、それに甘えた。
「お願いできますか」
「うんっ」
 駆け去るリルの後ろ姿を見送りながら、久居は自身が周囲の警戒に一層気を配ろうと緊張を高める。

 二人きりとなった森の中で、久居は木の葉を集めて枕を作り、なるべく草の乾燥していそうなところへ菰野を横たえると、手ぬぐいを絞って額へと添えた。
 かなり暗くなってきた森の中を、リリーの残していったランタンが不思議な光で満たしている。
 そのランタンは火のかわりに中央に据えられた石のようなものが輝いていて、温かみのある炎の色とはまた違う、揺れのない白っぽい光に、二人はぼんやりと横顔を照らされていた。
「寝苦しくありませんか? やはり私のマフラーを……」
「それはもう、やめておけ」
 菰野の脇で正座している久居に、菰野はほんの少し苦笑を浮かべて答えた。
 優しい声色ではあったが、菰野の息は少しずつ上がりつつある。
 熱に頬を染め、汗を滲ませ、痛みに耐えながら、それでも久居を気遣う菰野に、久居は堪らず口を開いた。
「傷が、疼きますか……」
 聞かずにいられなかったのか、久居は思い詰めたような瞳で自身より幼い主人を見つめていた。
「ああ……まあ、少しだけな……」
 菰野は、痛くない無いとも言えない状況に、仕方なくそう答えた。

 突然、久居がハッと顔を上げる。
(人の気配!?)
 久居の様子に菰野も体を起こす。
「どうした?」
「いえ……少し様子を見てまいります。菰野様は休んでいてください」
 久居は起きあがろうとする菰野をもう一度横にさせると、額の手ぬぐいを乗せ直す。
 こう暗くなってきては、ランタンを持って移動すれば逆に目立つだろう。
 ここは夜目の効く久居に任せる方が良さそうだ。と、菰野も判断する。
「ああ……気をつけろよ」
 菰野は久居の言葉に大人しく従うと、たった一人の従者の背を、その無事を祈りながら見送った。