Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚
走りながらも、久居はチラと振り返り「出来る限り、山に入っていてくださいね!!」と、まだこちらを見送っている少年に伝えた。
菰野は、背後に従者が追いついた気配を感じると、足を緩めぬままに口を開く。
「久居……、お前、首元気をつけるんだぞ」
「はい」
久居は、主人の忠告に一瞬沈鬱な面持ちを浮かべ、支給服の僅かな襟をできる限り引き上げた。
リルは、久居に渡された長い布に顔を埋めていた。
(久居の首巻き、ふかふかだ……。けど、今、初夏だよね……?)
僅かな疑問は置いて、リルはもう一度二人の向かった城を……、姉が捕らえられているであろう城を、見上げる。
(フリー、無事でいて……)
まだこの時、祈る他に、リルに出来ることはなかった。
作品名:Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都