Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚
「じゃあそろそろ戻るね」
おもむろに立ち上がる菰野に、フリーは思わず手を伸ばす。
「あ……」
それに気付いて、菰野は柔らかい笑顔で尋ねた。
「うん、何?」
「えー……と」
思わず伸ばした手を、慌てて引っ込めながら、フリーは言葉を探す。
「き、気をつけて行ってきてね」
「うん」
「お土産、期待してていいのかな?」
「何か選んで帰ってくるね、楽しみにしてて」
フリーの直接的な要求にも、菰野は変わらぬ笑顔で答える。
「それじゃ、フリーさんも元気でね」
背を向けた菰野の服の裾を、フリーは思わず掴んでいた。
「うわっ!!」
一歩進むはずだった菰野が、姿勢を崩して転びかける。
「あ……、ごめん……」
フリーは謝りながら、その手を離した。
「ど、どうしたの?」
菰野がまだバクバクしている心臓を押さえつつも、極力変わらぬ表情で尋ねる。
「えー……、えーと……」
フリーは、自身の行動を説明できずに困惑していた。
(何だろう……。何か、菰野をこのまま行かせちゃいけない気がして……。
けど、これって、ただ私が菰野と離れたくないだけなのかな……?)
困った顔で黙ってしまったフリーに、菰野が気遣わしげに尋ねる。
「……フリーさん?」
そんな声に、フリーは俯いていた顔を少しだけ上げると、どこか必死さのある潤んだ瞳で菰野を見つめて尋ねた。
「し、下まで一緒に行ってもいい?」
(もう少しだけなら平気だよね、結界……)
フリーの脳裏で母の姿がチラつく。
「う、うん。いいけど……」
菰野は、そんな彼女を可愛くと思いながらも、そんなに村から離れて大丈夫なのかと、心配せずにはいられなかった。
作品名:Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚 作家名:弓屋 晶都