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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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 菰野の前には、ぐしゃぐしゃに絡まった紐にガラス玉がいくつか括り付けられたような物が、広げられた布の中央に乗せられ、差し出されていた。
「え……これ……本当にもらっていいの?」
「う……うん……」
 ぼろぐしゃっとしたそれを前に、フリーが改めて思う。
(やっぱり……迷惑だったかなぁ……)
 正直、これは、私でも欲しくないな……。と自身の作ったそれをフリーが布で覆おうかと思った時、菰野がそれを手に取った。
「あ」
 菰野は、帯飾りをそっと引き寄せて尋ねる。
「着けてみてもいいかな?」
「う、うん。着けられるものなら……」
 フリーが思わずそう返すと、菰野は丁寧に帯の間にそれを挿し入れた。
 菰野をイメージして選ばれた緑を基調にしたガラス玉達が、陽を浴びてキラキラと輝く。
 新緑のような淡く瑞々しい緑、深い森を思わせる思慮深い緑。
 それはどちらもが、フリーの思う菰野の色だった。
 所々に添えられた、琥珀のようなこっくりとした茶色の小さな玉も、菰野の栗色の髪によく似合う。
「わぁ、素敵だね」
 言われて、フリーがようやく俯いていた顔を上げる。
 そんなまさか。という表情で。
「え……?」
「ありがとう。嬉しいよ、とっても」
 ふわりと微笑む菰野の周囲は、空気までもが煌めくように揺れている。
「ほ、本当……に……?」
 フリーは、どこか疑わしげにその顔を見てしまうが、
「うんっ」
 と菰野がにっこり笑うのを見て、ようやく本当に受け取ってもらえたのだと知る。
 途端に、フリーの頬が熱くなってくる。
 耳まで赤くなりそうなそれを、止められないままに、フリーは目を細めて答える。
「……私も、嬉しい!」
 弾む声に合わせて、サラリと明るい金の髪が揺れる。
 鮮やかに染まった頬に、喜びに綻んだ唇。
 ゆるりと緩んだ金色の瞳には、吸い込まれそうな煌めきがあった。
 菰野は、目の前でほんの少しだけ花開いた少女に、思わず見惚れてしまう。
(……可愛い……)
 少女につられるように、少年の頬が熱くなってゆく。
 二人は、静かな静かな森の中で、お互い黙ったまま、赤い顔を伏せた。

 菰野は、帯に飾られた手編みの飾りを指先ですくう。
 歪な編み目や、千切れた紐の跡に、悪戦苦闘の痕跡が残っている。
 そこから菰野には、この少女が自分のために苦心した様が容易に想像できた。
「なんか……この一ヶ月はすごく長く感じてたんだ……」
 先に口を開いたのは、菰野だった。
 囁きのような声に、フリーも柔らかい声で応える。
「うん、私も……。でも」
 フリーは、俯いていた顔をゆっくりあげる。
 頬の紅潮は落ち着きつつあったが、ほのかに残った朱色が、いつも活発な少女に少しの繊細さを残している。
「これからはまた、いっぱい会えるね」
 期待を込めた金色の眼差しに見上げられて、菰野も微笑みで応じる。
「うん。会えるね」
「よかった……」
 フリーのほっとしたような表情に、菰野もまた、安らぎを感じる。

 二人は見つめ合うと、もう一度微笑みを交わす。

 ここで相手と会うことが、自分のためだけでなく、相手のためにもなっている。
 そう思えるこの時は、何物にも代え難いと、二人は感じていた。